複数ジャンル短編 | ナノ
軽快なインターホンの音で沈んでいた俺の意識は半分強制的に浮き上がった。今日は珍しく挑戦者が一人もおらず、早めにジムを閉めて家へと帰宅していた。偶然姉ちゃんは博士に呼び出され家におらず。自分で夕飯を軽く食べてぼんやりとソファに横になっていた。
何度も鳴り響くインターホンの音に眉間にしわを寄せ、重い腰を上げれば膝に乗っていたイーブイが軽々と着地する。


「はいはい、どちら様ですか…」
「やっほー、グリーン。トリック・オア・トリート!」
「……ナマエ?」


ずるりと肩から軽く力が抜ける。俺の目の前にいたのは幼馴染のナマエだった。だが、彼女の恰好はいつものいたってシンプルで動きやすい服装ではなく頭に大きな帽子、真っ黒なマント…そう、言い表わすとすればまるで魔女のような格好だった。
訪問者がナマエだと気がついたのか俺の足元からスルリと出てきたイーブイは嬉しそうにナマエへとすり寄る。そのイーブイを抱き上げナマエは再度俺に笑いかけた。


「お前…なんだよその格好…」
「何って魔女だよ魔女!今日はハロウィンだからね!お菓子集めに回ってるの」


博士やレッドのお母さんからも貰ったんだ、と嬉しそうにカボチャを模したバックに入っているお菓子を誇らしげに見せるナマエ。徐にポケギアを取り出し日付を確認すれば確かにハロウィンの日だった。いつまでたってもこいつは子供だな…と失笑しつつナマエを見ればそんな事露知らず彼女は俺のイーブイと戯れている。


「わかった、お菓子用意してやっから上がれよ。ココアくらいはだしてやる」
「ほんと?やったー!やっぱりグリーンを最後にして大正解!!」


ぴょんぴょんと跳ねる彼女に溜息一つ洩らし家へと上げる。
それに素直に従いまるでポケモンのように俺の後をついてくるナマエは愛くるしい。男と二人っきりの家に入るなんて普通は少し身構えるものだと思うがそんな考えはこいつの頭には欠片もないのだろう。さっきまで自分が座っていたソファに座らせ、丁度用意している途中だったココアを二人分。温かな湯気が上がるそれを彼女の目の前に置き正面に俺も座る。


「わぁ、ホットココアだ!ありがとうグリーン!!」
「ああ。まだ熱いから気をつけて飲めよ」
「はーい!」


猫舌なのは相変わらずなのか息を吹きかけおそるおそる飲むナマエ。そんな彼女を見つつ俺もココアを飲む。
先ほどまで彼女に抱かれていたイーブイは俺の横にチョコンと座り、そんな俺とナマエの様子を興味深そうに見つめていた。


「で、お菓子だっけ?」
「うん。トリック・オア・トリート!!」


無邪気に笑い、手を差し出してくるナマエ。俺は徐に腰を上げ近くの戸棚へと手を伸ばす。転がり落ちてきたのは一枚の板チョコと飴玉数個。それを彼女の手へと渡せば瞳の輝きが増す。
が、そこで簡単に手を離す俺じゃない。引かれそうになった手を少し強く握ればナマエは疑問気に俺を見た。


「…trick or treat」
「へ?」


ポカンと口をあける彼女にも一度ゆっくりとその言葉を呟く。


「俺の方だけがあげるなんて不公平だろ?だから、お菓子、くれるよな?」
「え、えと…貰いもので代行とかは…」
「却下」


にこっと笑えばひくりとひきつるナマエの口。これは自分でお菓子用意していないな、と思い俺は更に彼女へと近寄る。
先ほどまで彼女の手に握られていいたお菓子は落ち、その手に指を絡めて動けないように握る。そのままゆっくりと上体を前に倒せば簡単に倒れる体。


「あ、あの…ぐ、グリーン?」
「なんだ?」
「顔が近すぎるような気がするんですが私の間違いですかね?」
「さぁ、どうだろうな」


耳元に吐息がかかるように呟けば彼女の耳は簡単に朱を帯びる。
邪魔な帽子を取れば彼女の綺麗な髪がさらりと流れ、それを一束救いあげて口づけを一つ。髪だというのにまるで自分にされたように顔を真っ赤にさせる彼女はなんて可愛らしいんだろう。


「お菓子がないなら…悪戯、だな」
「いや、いいです。結構です。間に合ってるんで」
「俺の方は生憎間に合ってないんだ…なぁナマエ」


フッと息をふきかければ甘い声が上がる。背中からゾクゾクッとした刺激が体中を駆け巡り俺の口角は自然と上がっていた。


「グ、グリー…」
「そんじゃまぁ、頂きます」


そう言うや否や俺は、早々に彼女の首筋へと噛みついたのだった。





甘い甘いお菓子を君と
(うわぁああん!レッドォオオオ!!)
(……何かあったの?)
(べっつに〜♪)

2010年ハロウィングリーンVer
101030 執筆


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