複数ジャンル短編 | ナノ
お正月、バレンタイン、ホワイトデーにクリスマス。
巷ではそんなイベントが一年を通して繰り広げられている。だが、そんなイベントごとなどこの極寒の山ではあってないものに等しかった。いや、ないのではない。一応ありはするのだがそんなイベントに彼がまったく関心がないだけだ。


「ふぃ〜、今日は一段と冷えるねウインディ」
「ガウ!」


一年中銀色一色の山の中、白い粉雪を巻き上げ私はある場所へと向かっていた。首に巻いてきたマフラーを巻き直し、かじかんだ手の平を温かな体毛に擦りつける。

今日は俗に言うハロウィンの日だった。巷では今頃子供たちが思い思いの仮装を纏い、家々を回っているのだろう。
私も小さい頃幼馴染の少年二人と回った記憶がある。最後は集めたお菓子で取り合いになり、少しばかり喧嘩した事もあった。今になればそれもいい思い出だ。


「ここはいつ来ても変わらないなぁ」


トン、と軽々とウインディの背から下り、あたりを見回しても広がるのは銀一色。


「ピッカ」
「ん?あ、久しぶり、ピカチュウ」
「ピカピカチュウ!!」


下から響いた声に顔を向ければそこには見慣れた小さな黄色い体が一つ。少し冷えたその頭をぐりぐり撫でれば嬉しそうに鳴いて飛びついてくる。その冷たさにぶるりと身震いを一つして、私はピカチュウを抱いたまま歩き出した。目指すのは目の前にぽっかりと口をあけている大きな洞窟。


「レッドー、いるー?」
「ナマエ?」
「よっす、久しぶり」
「うん…」


少し開けた洞窟の奥から顔をだした黒髪に片手を上げて挨拶。
後ろからついて来てくれたウインディの背から荷物を下ろし、軽く持ち上げて見せれば「食糧…」という彼の声が聞こえる。まるで餌につられてきた犬のように近づいてきたレッドにその袋を手渡し、ついでとばかりにピカチュウも渡す。


「いつも、ありがと」
「いえいえ、幼馴染だから当たり前だよ。でも、時々はおばさんや博士に顔見せに行きなよ?皆心配しているんだから」


私やグリーンが定期的に彼のもとに通っているとはいえ、やはり心配なものは心配だろう。

自分より幾分か背が高い彼の頭をぽんぽんと撫でれば小さく頷くレッド。返事はないがそれは肯定の意だと受け取り「それならよし」と私は笑った。


「ところでさ、ナマエ」
「なーに?」


食糧袋を漁っていたレッドが顔を上げる。焚火の近くで体を温めていた私はその体制のまま声のみを彼にむけた。返事をした後暫しの沈黙が流れ、そしてレッドがまた言葉を紡ぐ。


「今日って…ハロウィンなの?」
「へ?……え?ええ?えええええ!?れ、レッド!ハロウィン知ってるの!?」


あの、あのレッドが!あの行事には超がつく程に疎いレッドが今日がハロウィンだと知っているなんて!!

天変地異の前触れか!と叫んでいると目の前にペラリと一枚の紙切れが差し出される。


「グリーンの手紙にそう書いてあった」
「……ああ、なるほどね」


その紙、手紙と言うよりメモのようだけどね、と呟きつつメモを受け取り目を通す。
確かにそこには今日がハロウィンだという事が記していあり、最後には「たまには顔出せよ!」と一言。なんとも彼らしい内容だ。今頃ヒビキやコトネ達からお菓子をせがまれている頃だろう。内心あざ笑いつつ紙を彼に返し一息つく。

いつの間にか食糧あさりを終え、横に腰を下ろしたレッドもまた燃え上がる焚火を見つめながらうつらうつらとしていた。


「レッド、眠いなら寝なよ。私そろそろ帰るから」
「…眠くない」
「いや、明らか眠そうなんだけど」
「…眠くない」
「…そうですか」


むぅと拗ねたように口をとがらせ反論してくる彼にもうこれ以上言っても無駄だと判断。彼のしたいようにさせてやろうと思いぼんやりと焚火を見つめる。すると、不意に洋服の裾が小さく引っ張られる。


「ねぇ、ナマエ…」
「んー?」
「……Trick Or Treat」
「はい?」


一瞬何を言われたのかわからずポカンとすると再度レッドは「Trick Or Treat」と言う。


「あの、レッドさん?ど、どこでその言葉を…」
「グリーンの手紙に書いてあった。今日はハロウィンだからナマエが来たらこの言葉言ってやれって」
「……。」


あんのバイビーボンジュール…次ぎ会った時は出会い頭に大文字おみまいしてやる。

してやったり顔のもう一人の幼馴染の顔を思い出しつつ拳を握る。隣のレッドはそんな事に気が付かずにじっと私を見ていた。


「これ、どういう意味なの?」
「簡単に言うとね“お菓子をくれないと悪戯するぞ”っていう意味。ほら、小さい頃グリーンと一緒にこの言葉言いながら家々回ったの、覚えてない?」


あの時はこの言葉の意味も知らずにただただ連呼していた私達。はしゃぎながらいろんな家を回った頃が今は懐かしく感じる。

少し思考を巡らせていたレッドも思い当たる節があったのか「…そういえば」と小さく呟いた。


「……やたらグリーンが連呼してた」
「うん。五月蝿いくらいに連呼していたよね」


あの頃から自信過剰だった彼。今でもその性格は健全だ。レッドも私と同じ事を思ったのか二人して小さく噴き出す。そして、ひとしきり笑った後レッドは私を見て手を差し出した。


「ナマエ、Trick Or Treat」
「はい、どーぞ」


今日はいろんな人から(主に後輩から)せがまれると予想して持っていた飴玉を彼の手の平に転がしてやる。赤い飴玉と緑色の飴玉。それを手の平で転がしているレッドの顔は心なしか嬉しそうだった。


「…ありがと」
「どう致しまして」


頬笑みを浮かべれば彼もまた小さく微笑み返してくれる。変わらない彼のそんな無邪気な笑みを見つめながら、私はさり気なく彼の指に自分の指を絡めた。
それに気がついたレッドはまた柔らかくほほ笑み少しだけ指に力を入れる。そして、私の耳元で小さく小さく呟いた。





「…Happy Halloween」
(あの、レッドさん。不意打ちはずるいと思います)
(…これもグリーンの手紙に書いてあったから)
(……(グリーンGJ!!))

2010年ハロウィンレッドVer
101030 執筆


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