「「グリーンさんお誕生日おめでとうございます!」」
「おう、ありがとな!」
その言葉と共に浮かべる彼お得意のさわやかスマイル。今日の為に集まった後輩のヒビキ君やシルバー君、コトネちゃん、各ジムリーダーが彼に思い思いのプレゼントを渡していく中、私はただ一人研究所の壁に寄りかかりその様子を静かに見つめていた。
今日はグリーンの誕生日。その記念にと博士が開いた誕生日パーティーに沢山の人々が招待された。もちろん彼の幼馴染で恋人である私も、そしてもう一人の幼馴染であるレッドも。
来ないかなと少し心配していたけれど、彼は珍しく時間ピッタシにシロガネ山から下山、今昔の仲間と共に少しの雑談をしていた。と言っても彼はもともと無口なので頷いたり、少し単語を話すだけなのだが…。
「あら?ナマエはグリーンのところ行かなくてもいいの?」
「…カスミ」
「彼氏なんでしょ?行ってあげたら?きっと喜ぶわ」
綺麗な水色を主体としたドレスを身にまとったカスミが笑いかける。
こんな隅っこにいた私を見つけるなんて、流石カスミ。
私の足元にいるジュペッタが此方を見上げる。「そうね」と小さく呟き、私は「でも…」と言葉をつづけた。
「今は皆がグリーンを祝っているから。私が行ったら一人占めしちゃいそうで…」
「彼女はそんなもんよ。いいじゃない、皆にラブラブなのを見せつけてきなさいよ」
「ラっ!?そ、そんな事ないよ!私達は普通の…」
「周りから見たらまさにバカップルよあんた達。こっちまで暑くなってくるくらいにね」
わざとらしく手で仰ぐふりをしてカスミは綺麗な笑みを浮かべる。そんな彼女の優しさに一言お礼を言えばカスミはまた、綺麗に笑った。
「ありがとカスミ。でも、今はいいや。後で行くよ」
「そう?…まぁ、無理に連れていっても意味ないしね。待ってるわ」
「うん」
パーティーの真ん中へと戻ってゆくカスミに小さく手を振り、一息つく。
「グリーンのところ、行かないのか?」
「うわわわっ、れ、レッド!?」
突然横からかけられた声に飛びあがれば、そこには片手に貰ったのであろうワインを持ったレッド。いきなり動いたせいもあり、私の足元にいたジュペッタから苦情の声が上がる。
「ごめんね、ジュペッタ」
謝罪と共に彼を抱き上げ頭を撫でればジュペッタは気を良くしたのか口元を持ち上げニヤァ…と意地悪げな笑みを見せた。でもこれが彼の満面の笑みである事を私はしっているので数回ぽんぽんと彼の頭を撫でる。
「行かないのか?」
「…何処へ?」
再度問いかけてくる彼のわざとらしく聞き返せばレッドは眉をひそめる。
「グリーンのところ。…さっき、カスミにも言われてただろ」
「あー…うん。まあ、ね」
腕の中のジュペッタを抱きしめながら曖昧な返事を返せばレッドは首をかしげた。それを真似するように私の腕の中のジュペッタも首をかしげる。
「……行きたくない、理由でもあるのか?」
「…………うん」
たっぷり間をおいて頷くと彼はやれやれというかのように溜息をつき私の隣に寄りかかる。思わず彼の方を見ればレッドは手に持っていたワインをくいっと飲み干し近くのテーブルに開いたグラスを置いていた。その仕草がとてもきれいで見入っていると、レッドは此方へと視線を向ける。
「…話して」
「…え?」
「…行きたくない理由、話せるなら話して。何かアドバイスできるかもしれないから」
どうやら彼は私がグリーンのところに行こうとしない理由を聞きたいらしかった。
話そうか話すまいか迷っていると突然頭に重力以外の重さを感じる。ぽんぽんと柔らかく撫でられるそれは、レッドの手だった。
レッドはいつもそうだ。私が迷っている時や困っている時、いつの間にか隣に居て理由を聞いて彼なりのアドバイスをくれる。私がなかなか話そうとしないときはただ無言で優しく頭を撫でてくる。その温もりとレッドの優しさに、まるで魔法にかかったように私の口から自然と言葉がでてきてしまうんだ。
「…自信が、ないの」
「…自信?」
「グリーンの周りっていつも私より何倍も可愛い子がいるから。私なんか可愛くないし。オシャレとかもあまりしないし。だから…グリーンの隣で胸を張って立てる自信がないの」
「……ナマエは、十分可愛いよ」
「レッドが可愛いなんて言うなんて、珍しい事もあるんだね」
「僕も…それくらい、言える」
照れ隠しなのか帽子を深く被るレッドに思わず笑みがこぼれる。でも、彼のおかげで少し自信が持てた気がした。
「レッド…」
「…?」
「ありがと」
「…自信、持てた?」
「うん。レッドのおかげで少し持てた」
「そう。なら、よかった…」
最後に「頑張って」という言葉を残し、レッドは私の頭を再度撫でてから扉へと歩いて行った。彼は今からシロガネ山へと帰るのだろうか。ひきとめようと手を伸ばしかけたが、彼の背中がそれを許さないというような雰囲気を発していてやめた。
ふと時計に目をやると時刻は深夜になろうとしていた。会場の方に目を向ければ皆それぞれの思い出話に浸っている。だけど、よくよく目を凝らしても今日の主役である彼の姿は見当たらなかった。
トイレにでも行ったのかな?と首をひねっていると…。
「ナマエ」
「…グリーン」
「お前、こんなところにいたのか。どこにいるかと思ったぜ」
少し乱れたいつもの恰好で此方へと走り寄ってくるグリーン。お前背ちっさいからさ、とおちょくるようなグリーンの言葉に「なによー」と笑いながら反論していやれば頭をぐしゃぐしゃっと撫でられる。
レッドとは違う、少しだけ痛いけれど何故か嫌な気はしない撫で方。頭から伝わる温もりに頬を緩ませていればぐいっと腕を惹かれ気がつけば体は大好きな温もりに包まれていた。
「グリーン?」
肩口に顔を埋めてくる彼に首を傾げれば抱きしめる力が少しだけ強まる。
「どうしたの…?」
「……かった」
「え…?」
「寂しかった…お前、ちっともこっち来てくれなかったから」
「(ああ、ずっと隅にいたもんね)…ごめん」
寂しかった、再度そう言って彼は腕を緩め私と向き合う。その顔は不安と寂しさでぐちゃぐちゃになっていて、そっと両手で顔を包み込めば彼の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「本当は、お前に一番祝ってほしいって思ってたんだぜ?俺」
「…ごめんね、グリーン」
「なのにお前パーティーの間ちっともこっち来てくれなくてさ。何度もお前の方行こうと思ったのに他の奴らに捕まっちまって…今さっきじいちゃんのおかげで抜けてこれたんだ」
「そっか…」
「俺は必死にお前の方に行こうとしていたのに、お前はレッドと楽しそうに話ししてるし…どんだけ不安になったと思ってんだ」
「大丈夫、私はグリーンしか見てないよ」
レッドはいろんな話を聞いてくれる親友。グリーンは私の愛しい人。この間は浅いようでとても深い。
ぎゅうっと彼の体を抱きしめればグリーンの匂いが鼻腔いっぱいに広がる。私が一番大好きで、一番安心できる香り。
「グリーン、お誕生日おめでとう」
「言うのおせーよ、馬鹿。あと数分で日付かわんじゃねーか」
すん、と鼻をすする音が耳元で聞こえた。可愛らしい彼の行動に場違いにも頬が緩む。
幼馴染から恋人となったことで変わり始めた彼への印象。大人っぽくて近寄りづらいなと思っていた彼は以外にも初心で、それでいて努力家だった。でも、それを見た事によって私の彼に対する愛情が増したのは確かで。
おめでとうの意と彼を慰めるという意をこめて精一杯背伸びして少し背の高い彼の唇に口付ける。驚きと恥ずかしさで徐々に頬を染めてゆく彼にしてやったりと笑いながら、私は再度彼を抱きしめて言った。
「生まれてきてくれてありがとう」
HappyHappy(これからもよろしくね)
(当たり前だ、バーカ)
最後ジュペッタ空気\(^0^)/←
101122 執筆
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