複数ジャンル短編 | ナノ
今まであんなにも空を明るく照らしていた太陽が少しずつ沈み始めた夕方。


「う〜ん」
「まだ決まらないの?ナマエ」
「うん。これといったものがね…」
「かれこれ2時間はここにいるのに?」


店員さん睨んでるわよ、とブルーに耳打ちされ顔を上げれば確かに鋭い視線で此方を見ている女性店員が目に入る。うわ、と若干冷や汗をかきながら必死に視線を元に戻し手元の物をまた見比べる。どちらも彼に似合いそうでどちらにすればいいのかわからない。


「あー…決まらない…」
「もう、仕方ないわね!こうなったら私が選んであげようか?」
「だ、駄目駄目!これは私が選ぶの!ブルーに頼んだら意味がないじゃない!!」


必死に言えばブルーは呆れたように溜息をつく。少し先からくる冷たい目線を浴びながら、私はまた手元に目線を戻すのだった。




△ ▼ △





ヨルノズクが鳴いている。もう空は漆黒に染まり、その中で唯一光を放つのは小さな星星と月だけだった。遅くまで付き合ってもらったブルーにお礼をいって別れてからどれくらいが経過したんだろう。私の足元で寒そうに鳴くガーディを抱きしめながら私は大きく息をはいた。


「流石に…いないよ、ねぇ…」


光の一切灯っていない無機質な建物を見上げ、再度ため息をついた。
横を見れば文字の掠れた看板が目に入る。そこには少し見ずらい文字で「トキワジム」と書かれていた。


「現在時刻夜中の10時」


ここに付いたのが約9時30分くらいだったから、かれこれ30分この寒空の下にいた事になる。君は暖かいね、ガーディ。と呟き温かな体毛に頬を擦りつければくすぐったそうにガーディは鳴いた。

今日は…彼の誕生日だった。彼と言うと誰もが首をかしげるが、ツンツンと言うと皆が頷いて納得する。そう、今日誕生日の彼とはこのジムのジムリーダーであるグリーンの事。
一応彼の幼馴染である私は密かに彼に恋心を抱いており、好きな人への誕生日は特別素敵なものを上げようと意気込んだ結果こんな時間に此処へ来訪することとなった。流石に幼馴染と言えどこんな夜遅くに来られては迷惑かな、とぼんやり考えつつ手元の箱へと視線を落とす。

緑色の包装紙に包まれた可愛らしい箱。それを赤のリボンで結ばれたそれは、私が必死に選んだ彼への誕生日プレゼントだった。


「もう、家に戻っちゃったのかな…」


はぁ、とため息一つ。どうしてこうも私は肝心な時に失敗してしまうのだろうか。
ジムに光が灯っていないという事は彼はここにはもういないという事。今日は彼の誕生日だから、きっと博士がパーティーなどをしているのだろう。


「帰ろうか、ガーディ」
「ガウ」


ぽんぽんと柔らかな体毛を撫でてやれば気持ちよさそうに瞳を細める相棒。擦り寄ってくるそんな相棒をボールへと戻し、箱をポケットに無理やり押し込んで踵を返した。

夜の冷たい風が頬を撫ぜる。ブルリと身震い一つをして、歩みを進めた…その時だった。


「来て早々に帰るとは、酷いんじゃないか?ナマエ」


柔らかな低い声が風に乗って耳に届く。
振り返れば先ほどまで閉じられていたジムの扉が開き、彼が出てきた。いつもと変わらない冷徹な表情で腕組をし、飄々と私を見つめている。


「ぐりー…ん…?」


なんで、と零れおちた疑問に彼は大きなため息をつく。


「まったく、いつ来るかと思えばこんな夜中だとはな…その時間にルーズな性格、そろそろ治した方がいいぞ」
「なっ、よ、余計なお世話よ!」


ぐっと唸ればグリーンはゆっくりとこちらに近づいてくる。その瞳は真剣で、ツンツンの髪は月の光に照らされ柔らかな黄金色に光っている。
逃げようと思う気も起らず、じっと近寄ってくる彼を見つめれば目の前にまで来たグリーンは私を見下ろす。変わらないポーカーフェイス。気付かれないようにと上着のポッケに入っている箱をぐいっとポッケの奥に押し込めた。


「それ、俺へなんだろ?」
「へ?」
「今ポッケの奥に押し込んだものだ」


じっと視線が注がれるのは私の手。相変わらず彼の観察眼はずば抜けている。
どうするべきか、このままこの箱を素直に渡すか、それとも…。
思考を巡らし動かない私にしびれを切らしたのか、グリーンは不意に私のポッケへと腕を突っ込む。


「ちょ、ちょっと、なにしてっ」
「これ、俺へだろ?」


咄嗟に彼の腕を掴もうとしたが彼の方が少し早く、箱は今グリーンの手にしっかりと握られていた。
ズバリと言い当てられ次第に熱くなる顔。それを見られたくなくて俯けば、小さな笑い声が聞こえてくる。ぎっと睨みつけても顔を真っ赤にした今の私ではまったく怖くないのだろう。少しだけ優しい彼の瞳と目が合い、ぽんぽんと頭を撫でられる。


「別に…偶然グリーンが誕生日だって聞いて買っただけよ」
「そうか」


くつくつと楽しそうに笑うグリーン。うまく言い訳ができない私は恥ずかしさのあまり再度俯いた。
吹いた風に私と彼の髪が揺れ、肌寒さに無意識にくしゃみが出る。そんな私を見たグリーンは柔らかくほほ笑み。


「入れよ。長いこと外にいたんだろ?飲み物用意してやる」


プレゼントの礼も込めてな、と私の目の前で手に持った箱に小さく口づけた。





ホットな飲み物はいかが?
(身も心も温まる、そんな言葉を放つ貴方に私は叶わない)

どちらのキザなお方ですかこれ←
そして小説を書き上げるのが物凄く遅くなってしまい申し訳ありませんでした。ひぇええ、誕生日一カ月過ぎてる!
101230 執筆


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