複数ジャンル短編 | ナノ
燃えるような瞳は炎のごとし。揺れる茶髪は鬣のごとく。
その姿は雄々しく勇ましく、まさに一言で表現するならば――。


「荒野を駆ける若獅子!そうは思わない?ナマエ」
「別に…」


興奮気味にまくしたてるコトネに冷たく言い放てば彼女はむぅと頬を膨らませた。彼女の口から表現される彼の印象はどれもいいものばかり。

“クール”
“男らしい”
“カッコいい”
“紳士みたい”

そんな女子の理想を固めたような言葉。尚も彼の事を熱に浮かされたような目で語り続けるコトネに呆れた目線を送り、私は徐に席を立つ。必要最低限の物しか入っていない空っぽ同然の鞄を肩にひっかければコトネが不満げな声を上げた。


「もう少し話聞いてくれてもいいってコトネ、ナマエ」
「いやいや、もうかれこれ30分は聞いてるよコトネ。後は恋人で幼馴染のヒビキ君に語ってやってくださいな、彼ならきっとずっと聞いてくれるよ」


――飽きたらすぐにその場を離れる私と違ってね。

そう言い残し足早に教室を去った。


「ヒビキに言うとやきもちやいて暫く話してくれなくなるの知ってるくせに…ナマエの意地悪」


机につっぷしてコトネがそう零したなど、私が気がつくはずもない。




見慣れた階段を駆け上がり誰かが壊した扉を開く。途端に少し肌寒い風が頬を撫で、身震して空を見上げれば黒い影。


「遅いよ、バカナマエ」
「うっさい、サボり魔」


ぎろりという効果音が似合いそうなほどにお互いを睨み、私は改めて距離をとって上の存在を見つめた。
外ハネの茶色い髪。光で燃えるように煌めく瞳。眉間に寄せられた皺は深く、口は不機嫌気味に一文字に閉じられている。
先ほどまで若獅子と呼ばれ話の話題となっていたその存在は、女子たちの間で交わされる言葉の面影すら見えないふてぶてしい態度で屋上扉の上から私を見下ろしている。


「幼馴染から呼び出し受けたらすぐに来るのが鉄則だろうが」
「行こうとしたらコトネに捕まったのよ。それに、全てがあんた中心で回っているって思わないでくれる?――ファイア」


ふん、と言い放ってやれば挑発的な笑い声を零す彼。幼馴染と言えど実はそれ以上の関係である私達。でもそれは秘密で、私達の本当の関係を知っている人はこの学校にはいない。
登ってこいと指で隣を指さす彼はなんというか、表現するならば一国の女王様という感じだ。まぁ、それに素直に従って彼の隣に腰を下ろす自分も自分でまるで家来のよう。
時折吹く風が二人の髪を揺らして去ってゆく中、自然と重ねられた手はお互いの体温を交換して熱さを増してゆく。


「クールで男らしくて、カッコ良くて、紳士」
「なに?いきなり」
「コトネ&周囲の女子からのファイア印象」
「へぇ…ま、そういう風に見られるよう行動しているから当たり前だけど」
「まったく、この本性コトネ達に見せてやりたいわ」
「はっ、ぜってー無理だね。俺そういう場を逃れるの得意だし」
「ほんと、そんな自信どこからやってくるんだか。まるで女王様だね」
「ならナマエは俺の従者だな」
「こんな我儘女王様につき従う従者はごめんだよ」


コトネにむけた時と同じ視線をファイアにも向ければ、彼はまったく気にしていないそぶりで悪戯っ子の笑みを浮かべる。


「でもそう言いながら、お前は俺にずっとついて来てくれんだろ?」
「まーね。だってこんなファイアの傍にいられるのは私だけだし。感謝しなよ?」


ぎゅっと繋いだ手を握り強気に言い放てやればファイアは少し驚いた顔をした後、ゆっくりと嬉しそうに笑う。


「せいぜい末永く頼むよ、俺の、俺だけの従者さん?」
「もちろんですとも。私の大切な女王様」


繋いだ手の甲にまるで本物の騎士が姫にするように口付ければ、お返しとばかりに額にキスを落とされた。





女王に永遠の忠誠を
(幼馴染で秘密の恋人で、女王と従者で)
(そんな私と彼の関係)


初ファイア夢
ファイア=ドツンの女王様という自分の方程式
110130 執筆


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