人は自分自身が考えている以上に他人に執着するものなんだと自分自身の身をもって知った僕はバカだとしみじみ思う。まさか自分のものだとばかりに考えていたナマエが呼び出しを受けるなんて思ってもいなかったし、なんか嫌な予感がしたから見にいけばそこには無理矢理抑えつけられているナマエが見えて。
「ねえ、なにしてんの?」
「!…ふぁ、いあ?」
「あ?んだよ、お前」
目の前が真っ暗になるとはこの事だろう。目尻に涙をこれでもかと溜めて此方に助けを求めるように言葉を紡ぐナマエに不機嫌そうに此方を睨む先輩らしき男性。きっと彼等を見つめる僕の瞳は恐ろしく冷めていて、それでいてギラギラと輝いていたんだと思う。
気がつけば体が勝手に動いてその先輩を殴り飛ばし、ナマエの手を引いて走り出していた事に気がついたのはその数秒後の事で。
「お前さ、少しは用人とかしたほうがいいんじゃないの?というかするでしょ?なにホイホイ呼び出し受けてんだよ。だからそんな目にあうんだよ」
「ご、ごめん…」
少し離れた場所でナマエの手を掴んだまま、僕は頬を伝う汗をうっとおしそうに拭った。違うこんなことが言いたいんじゃない。でも目の前で制服を少し肌蹴させて涙を浮かべるナマエの姿はどこかそそるものがあって。上手く言葉を紡げないんだ。
淡々と僕の意識を無視して零れる言葉の数々にナマエは瞳をこれでもかというほどに歪める。だから、僕は本当は君にそんな表情をさせたいわけじゃないんだ。ただ、笑ってほしいだけ。ただ、僕に笑いかけてほしいだけ。
「本当に、馬鹿だよ、お前」
「……。」
「バカの中の馬鹿だ」
「そ、そんなに言わなくたって…」
「でも…」
そんなお前に嫌になるくらい執着している僕も、相当の、いや、それ以上の馬鹿だ。
「ああもう本当に…」
結局、本当に馬鹿なのは僕みたいじゃないか。
「馬鹿だよ、ナマエも…僕も」
だから、そうやって泣いているくせに頬を朱色に染めるのやめてくれない?
そのすべてに更に執着しちゃうから。
馬鹿な僕と馬鹿な君(結局は強く執着した方の負け)110209 執筆
top