複数ジャンル短編 | ナノ
「で、」
「ん」
「なんでこうなったかの経緯を事細やかに決して省略せずに説明して下さると嬉しいのですが」
「多分3日は要すると思うけど、ナマエがそれでいいなら…」
「すいませんでした」


いつもならば受けるはずのない下からの視線に思わず頭を下げれば呆れたようなため息が聞こえた。


「いや…いやいやいやでもさ、これは説明してくれないと、一目見ただけじゃまったく状況を理解できないんだけど」


細く小さな両腕の脇に手を差し入れ少し力を入れれば、その体はまるでお人形のように浮き上がる。「おい、離せ」と心底嫌そうな声が聞こえ鋭い瞳が飛んできたがそんなもの効かない。いや、いつもの彼がしたのならば効くと思うが今回はちょっと外見の問題もあって全く効かない。


「久しぶりに会ったら幼馴染が幼くなってるとか、なにこのファンタジー」
「…そんなの、俺だって知りたいよ。とにかく、起きたらこうなってたんだ。理由なんて知らん」
「自分の事なのに落ち着いているところは変わらないね、ファイア」
「ふんっ」
「うわー、ふてぶてしー」
「るさい」


離せと言わんばかりに頬を押してくる小さな小さな手を受けながらも私の頬はだらしない程に緩む。それはそうだろう。目の前にいるのはあのファイアの幼い姿。
いつもはツッケンドンのドツンを発揮するまさに女王様的な姿しか見れないためこれはレア中のレアだ。写真の中でしか見れないと思っていたファイアの幼い姿が今目の前に、そして腕の中にある。
抗議の声など気にもせず思いっきり抱きしめれば耳元で少しばかり高い声で何やら暴言を吐かれる。「デブ」とか「バカ」とか聞こえたような気もしたが今回は許してやろう。
そんなことなどに怒りを覚えない程に私は今歓喜と感動に震えているのだから。


いつもより迫力がないほわほわの髪を撫ぜ、自分よりも温かな子供体温を堪能するようにきゅうっと力を込めれば次第に弱まってゆく抵抗。


「…はぁ…ったく…」
「えへへ〜」


諦めたらしい。大人しくなった彼の頬に頬擦りすればむぅと不満そうに唇を尖らせる。それでもそれ以上彼が抵抗することはなく、私のされるがままにされている。まるで女の子の好きなようにされているお人形さんみたいだ。


「いつもの時もこうやって大人しくしてくれればいいのに」
「嫌だね」
「ケチ」
「るせ。そもそも、前に試しにお前に好きにさせたら俺の髪が大変な事になってたじゃねーか。お前は限度を知らないんだよ、限度を。だから嫌なんだ」
「だってさ、ファイアの髪ふわふわでまるでライオンの鬣みたいで好きなんだもん」


もふもふと彼の髪を触れば「乱れる」と小さな手で払いのけられた。それでも懲りずに触れば顎に頭突きされて「ぐえ」と変な声を上げてしまった。頭突きをされた私も痛かったが、した方も痛かったらしくお互い顎と頭を押さえ暫し悶絶。


「っ、馬鹿!大馬鹿ファイア!!」
「っ、るさい!俺だってこんなに痛いなんて思ってなかっ……っ」


じわじわと目尻に上がってくる涙を必死に抑え怒鳴りつければ、負けないとばかりに言いかえされるが途中で彼の言葉は途切れた。代わりに炎のように鮮やかで大きな朱色の瞳が見るみるうちに歪み、ナイアガラの滝のごとく膨大な量の涙が零れおちる。


「え、ちょ、どうしたのいきなり!」
「っ、うるさい…俺もわからなっ…なんか、勝手に…っ」


うっと唸ったかと思えばぐすぐすと瞳を擦り始めるその様はまさに子供。


そういえば子供は自分達大人よりも涙もろいんだっけ。


持っていたハンカチで彼の目元を拭えば小さくお礼を言われたのでだらしない笑みを浮かべてしまった。


「もう一回頭突きしてやろうか」
「すいませんでした」


くっそう、デレは一瞬で終わりか!
内心の怒りを表すかの如く強く抱きしめれば顎に二度目の衝撃が走りました。




幼子でも強敵です
(無理強いすると頭突きと涙目のコラボがきます)

110228 執筆


ファイアを愛でる為に作った二次創作絵文合同企画サイトにて掲載していたもの。

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