複数ジャンル短編 | ナノ
ずっと追い続けていた彼。負けたくなくて、追いつきたくて伸ばしたこの手のひらは今、君に届いていますか?




△ ▼ △





世界最年少チャンピオン――マサラタウンのレッド。
そんな噂を辿り、各地方のジムリーダーを制覇した私は今、最強のトレーナーがいるというシロガネ山の山頂付近へと歩みを進めていた。


「ピジョット!振り切って!!」
「ピジョッ!」


必死の声に元気な声で答えてくれた相棒を優しく撫でる。後ろからは尚も迫り来る強いポケモン達。

山に入ってから数時間。この間に出会ったレベル40以上のポケモン数十匹。戦ったのは最初の数匹だけ。その後は全てを相棒のピジョットに乗り振り切るという強引な手段で登ってきた。そして今、まさに何十回目かの逃走という名のそれを私は実行している。

幸い吹雪などの悪天候はなく、晴れ晴れとした天気だったが逆にそれが悪かった。見渡す限りの青空の下、早く山頂に着きたいがために取った行動――空を飛ぶ。
青一色の空を飛ぶ一匹のポケモンと強いトレーナーを見て襲ってこないポケモンなどいない。私とピジョットは戦いに飢えたポケモンたちの格好の獲物。


こんなことなら空を飛ぶなどせずに、普通に歩いて登ればよかったと後悔しても、もう遅い。数時間前、ルンルン気分でピジョットに跨った自分を全力で殴り倒したい。


「あーもう!しつこいのよ!あの群れ!」
「ピジョォ!」


怒りにまかせて怒鳴り散らせば下からは相棒の同感だ、というような鳴き声。かれこれ数十分ほど自分達の後ろを追いかけてくるゴルバットの軍団。
流石にこれ以上逃げ切れないと判断した私は腰につけているボールの一つを手に取った。


本当は使わないつもりだったんだけど、しかたがない。今は緊急事態だ。


「ピカチュウ、かみなり!」
「ぴっかぁ!」


投げたボールの中から現れた二人目の相棒に即座に指示を出せば、目の前に青白く閃光を帯びた光の柱が突如出現する。突然目の前に現れたその巨大な雷に驚き、今までこれでもかというほどしつこかったゴルバットは我先にと逃げ出していった。


「ふぅ、ありがと。ピカチュウ」
「ちゅぅ!」


落ちてきた黄色い小さな体を抱きとめ、そのフニフニと柔らかい頬に頬ずりすれば、腕の中の小さな相棒は嬉しそうに鳴く。それがまた愛おしくて私は更にその小さな体を抱きしめた。


「あーもう、お前可愛すぎる!」
「ぴー!」
「ピジョ…」


腕の中から聞こえた少々苦しそうな声を聞き、下の相棒から呆れた鳴き声が出たのはこの際聞こえなかったことにしよう。
そうやって下の相棒から呆れられながら小さな相棒と戯れること数分、私はとうとう山の山頂へとたどり着いていた。


「ここに、あいつが…」
「ぴか…」
「ピジョォ」
「お疲れ、ピジョット。ゆっくりとお休み」
「ピジョ!」


ここまで必死に、幾度のポケモン達の追跡を振り切ってくれた相棒の頭を優しく撫でボールへと戻す。ボールにもどってしまった彼にもう一度「ありがとう、頑張ってくるね」と言って、私はもう一人の小さな相棒と共に歩き出した。

辺りに広がるのは壮大な景色。さすが山頂というだけあって肌寒いがコートを着るほどのものではない。肩にくっついている相棒の頭を優しく撫でれば、「ピカァ〜」と気持ちよさそうな声が出て頬が緩む。


最後のバトル直前だと言うのにこんなにも抜けていていいものかと思ってしまうが、しかたがない。それほどまでにこの山頂は静かで、穏やかなのだから。今までのここまでの道のりであった出来事が全て嘘のように感じられる。


「にしても、どこにいるのかなー…生きる伝説様は」
「ちゅぅ?」
「見当たらないね」
「ぴっかぁ」


別にそこら辺に落ちているわけでもないのだが、思わずそういわずにはいられなかった。こんなにも見晴らしがよければすぐに見つかると思っていたが、まったくといっていいほど人影は愚か生物の姿さえ見当たらない。

どこまでもその場所は静かだ。


「もしかして、もうここにはいないのかな…」
「ぴかぴ……ぴ!ぴっかー!ぴかちゅっ!」
「ん?どうしたの、ピカチュウ…あ!!」


耳元で騒ぐ相棒の小さな指が指す方向を見れば――いた。辺りをまう雪で掠れているが、その中にも特徴的なそのシルエットが浮かび上がっている。

全身を赤一色で統一し、冬はマイナス0度を超えるこの極寒の山に半袖で約2年間篭り続けた生きる伝説――…。


「レッド…」
「……ナマエ?」
「うん。久しぶり、レッド」
「……あぁ」


その名を呼べば感情というものが滅多に現れることがないその真紅の瞳が若干見開かれ、懐かしい彼の声が少々冷たい風にのって耳に届く。

久々の再会、と言うべきか。彼の頭に乗り、此方を見ている自分と瓜二つなピカチュウも懐かしく感じる。どうやらそれは相棒も同じようで、私の肩の上から彼の頭にいる同種の仲間を懐かしげな瞳で見つめていた。


「やっと、追いついたよ」
「……あぁ、待ってた」
「ほんと、マサラタウンで別れた時以来だよね」
「…あぁ」


あの時以来、滅多なことでは顔を合わすことがなかった幼馴染の私たち。


何時の間にやら、お子様だったレッドは最年少チャンピオンに、俺様のグリーンはジムリーダーへと成長していた。
何も変わらなかったのは私だけ。いくら強くなろうとも、私がバッチ1つとっている頃には君たちは既に3つ。やっとポケモンリーグに着いたときには、既に君たちは最強のトレーナーとジムリーダーになっていた。

それがまるで私一人置いてきぼりにされたようで、ずっと不安だった。今まで皆が皆足並み揃えて成長していたから余計に。


「…努力して努力して強くなって強くなって、今――レッド、君がいるこの場所までたどり着けた」
「……そうか」


すっ、と私を見据える鋭い瞳が一瞬だけ優しく細められる。


「よく、頑張ってここまで来たな」


ポン、と何時の間にか近くに来て頭に乗せられた大きな手。あの頃よりも成長した彼は私よりも少しだけ背が高くて、とても大きく感じられた。


あぁ、この癖だけは変わらない。何かあるたびに私の頭に乗せられていた彼の手。それがなんともいえないほどに心地よくて、暖かくて。今この極寒の山にいるのが嘘のように感じられてしまう。


「だが……話もここまでにしよう」


またもやいつの間にか距離をとっている彼。その瞳と声は先ほどとは打って変わり、威厳に満ちた鋭利なものへと変わっている。


(あぁ、これが彼だ)


どんなトレーナーだろうと真っ向から堂々と勝負する。
女子でも、子供でも、大人でも関係ない。
それがたとえ仲のよかった幼馴染だとしても、彼は本気で戦うのだろう。
手加減はしない。情けもかけない。それが彼の、レッドの戦い方。

深く被った帽子の奥で鈍く煌く真紅の瞳を一瞬だけ見つめ、私も力強く頷いた。


「……準備はいいか?」
「準備はいいか?ナマエ」

「いつでもオッケイ!」
「いつでもオッケイ!けちょんけちょんにしてやるんだから!」

幼い頃、いつもバトルの最初に交わしていた言葉を紡げば自然と身が引き締まる。

ニッ、と強気に笑って見せれば、彼の帽子の奥の唇が小さく弧を描く。


「それじゃぁ…」
「……バトル」
「「開始!」」





追い続けた彼は
(今こうして目の前にいる)
(それがとてつもなく嬉しいんだ)


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091209 執筆


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