夕焼けがあたりを照らし、僕の足元に黒い影を作る。周りに既に人気はなく、目の前の廃墟だけがポツンと立ちはだかっていた。
今日もボンゴレは出てきませんでしたね。やはり、この計画ではだめなのでしょうか…。
顎に手を当てながら考える。
「計画を練り直す必要がありそうですね…」
クフフ…と笑いをこぼし廃墟に僕は歩みを進める。
もう、千種と犬は帰っているでしょうか。まぁ、彼らにも彼らなりの事情があると思いますがね。
空を見上げればあたり一面の燃えるような夕焼け。雲ひとつなく。まるでどこまでも広がっていけそうな、吸い込まれそうな感覚に陥る。
「真っ赤だね…」
「!?」
不意に後ろからかけられた言葉にピクリと反応をする。振り向けば目の前にいたのは一人の少女。長い黒髪に、真紅の瞳。それに、ボロボロの鞄と制服。
どことなく…僕に近いものを感じた。
「こんにちわ、お兄さん」
鈴を転がしたような声、細く微笑む瞳。彼女は力なく微笑んだ。
「えぇ、こんにちわ。お嬢さん」
僕も挨拶を返す。だが、瞳は笑っていない。
一般人には警戒を怠らない。それが僕の心得。誰であろうと、ね。
頭を下げて挨拶れば、同じく頭を下げる彼女。長い髪がパサリと肩にかかる。
美しい…。一般の人間のはずなのに、彼女はどこかそこから浮いていた。…どこか、こちらの人間に近い匂いがする。
ついついそう思ってしまった。
「貴方はどうしてこんなところにいるのですか?」
「それは私も貴方に言おうとしたことだよ。なんでお兄さんはこんなとこにいるの?」
僕の質問を質問で返してくる少女。
まるで鸚鵡(おうむ)返しのように…。
「この先に僕の家があるんですよ」
「なるほど、奇遇ですね。私の家もこっちなんですよ」
普通に答えれば彼女も答える。そして、同じですね、とフワリと微笑んだ。傍から見れば暖かい陽だまりのような笑み。だが、微かに悲しみが混じっていると感じたのは僕の思い違いだろうか。
△ ▼ △
その後は何も話さず僕達は歩き続けた。一言も話さず、ただただ、歩みを進めるだけ。見えてきたのは一軒の古びた家。苗字の標識があったが、かすれて読み取ることはできない。じっと見つめその標識を読もうとする僕に、彼女は小さく微笑みかける。
「じゃぁ、私ここなんで」
さよなら、と手を振り家の中に入っていく。僕は何も返さずにその様子を見つめていた。
―――パタン……
閉まる扉。
静まる空気。
真っ赤に燃える夕焼けの空。
静かに落ちる僕の足元の影。
そして…目の前の何もない空き地。
「彼女は…なんだったのでしょうかね」
ポツリと出た言葉は、静かな空気に溶けて消える。
幽霊?それとも幻影?はたまたは…僕の見た幻だったのか。
「クフフ…どちらにしても、意味はありませんがね」
どんな経験をしようと、それが今後役立たなければ意味はない。それが、僕が学んだこと。僕が見た世界。
目の前に広がる空き地を見つめ、小さく僕は笑う。そして、踵を返し家へと歩きはじめた。自分を唯一受け入れてくれたあの子たちの元へ。
が、しばらくすると一瞬だけ空き地を見る。そして…小さく言った。
「少しの時間でしたが、意外と楽しかったですよ。“ありがとうございます。そして、さようなら”」
小さな声は空気を揺らし、空き地の片隅のスズランの花を優しく揺らした。
君と僕(私も、最後に…貴方に出会えてよかった。ありがとう…ございました)091117 修正
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