そこには…生気というものが感じられなかった。
狂ってしまいそうなほどの赤い血の池。
むせかえるほどの血のにおい。
もはや原型すら分からない肉塊。
あちこちに赤黒い血がこびりついている壁。
崩れ、穴があき、夜風が吹き込む廃虚。
そこにたたずむ1人の女性。彼女の名はミョウジナマエ。裏社会では『人喰い狼』と言われ恐れられているボンゴレ直属の殺し屋。
初めは綺麗だったのであろう白いワンピースを真っ赤に染め。片手に黒焦げた鞘を、もう片方には刃渡り30cmほどの赤い刀を持っている。適当に切ったのだろうその黒い髪は肩につくかつかないかの長さで風と戯れている。
鋭い光を放つ赤い双眸は半分ほど閉じられ、虚空を仰ぐ。彼女――ナマエはある任務で此処にやってきた。
裏切り者の掃除――それが今回彼女に課せられた任務。
その裏切り者の名前の中には見知った名前も入っていた。
一緒に遊んだ仲間、酒を飲みあった仲間、そして…自身の両親の名前が。
だがナマエは斬った。任務のため、命乞いをする友を、逃げ惑う仲間を、泣き叫びやめてくれと言う実の両親を、斬り続けた。斬って斬って斬り続け、最後は皆、原型もわからないほどになり今現在彼女の足元に散らばっているている。
赤い、紅い、朱い。私を取り囲む全てが。私の体が。壁も、床も、こいつらも。全部赤い。
瞳を閉じて辺りに充満する血のにおいをかぐ。…鉄臭い。何度かいでも慣れることはないこの独特の匂い。
その匂いの強さに一瞬ナマエは顔をしかめた。
「まったく…毎回毎回血だらけですね、ナマエ」
背後よりかけられた言葉にピクリとナマエの肩が揺れる。振り向かなくてもわかる。この変態臭い声。
「…骸」
振り向かずに呟くと自身の体が何やら暖かいもので包まれる。数秒かかって自分が抱きしめられているのがわかった。
急いできたのだろう、息は荒く、黒いスーツは乱れている。拒絶は、しない。こうされるのは慣れているから。
動こうとしないナマエを見、骸はさらに強く彼女の細い体を抱きしめる。
強く、優しく、壊れ物を扱うかのように、大事な物のように。そんな骸の抱擁をナマエは無言で受け止める。何もせず、只無言で抱きしめられる。
そうすることが一番いいと知っているから。これだけで、弱く、孤独な彼を慰められる。だからナマエは動かない。
「あまり…無茶しないでください」
「…ごめん」
「1日にSクラスを5つは多すぎます」
只でさえ他の仕事で疲れているのに、と骸は小さく呟き顔を上げる。腕がゆるんだのを見、ナマエは骸の方へ向き直った。
骸の顔は焦りと疲れ、そしてナマエが無傷だったという安心感が入り混じった表情をしていた。細い瞳はかすかに潤み、まるで親に置いて行かれた子供のよう。
それを見たナマエは持っていた刀をしまい、骸の首に腕を回し優しく抱きしめる。今にも泣きそうな彼を慰めるように、心配そうにナマエの服を掴む彼を安心させるように。優しく優しく…。
骸はそれに驚き一瞬瞳を見開いた。だが、すぐに優しくナマエを抱きしめ返す。
幾多の肉片と血が散乱するその場所で、抱き合う男女の姿は他の者を寄せ付けない神々しさをもっていた。
△ ▼ △
どれほどの時間抱き合っていたのか、暫くしてナマエは静かに骸から体を離した。
「血、付いちゃったね」
「別に、気にはしません」
先に抱きしめたのは僕の方ですから、と骸は苦笑する。それを見てナマエも笑う。
「帰りましょうか」
「うん」
差し出された手を握りナマエは死臭が漂う廃墟を後にした。
廃墟からでる一瞬、彼女の頬を一筋の滴が流れ落ちたのは…誰も知らない。
狼の涙(皆…ごめん。でも、皆と過した時間は、絶対忘れないから)最後がちょっと意味不明だと思うので、ここでその説明を…。
彼女が泣いた理由、それは実の両親と仲間を自らの手で殺してしまった罪悪感からです。殺してしまったあと初めは我慢していた。けれど、後から来た骸に抱きしめられたことによって我慢が解けてしまい最後、廃墟から出る際に泣いてしまった。
ってところです。意味不明な文ですいませんでした。
そして、ここまで読んでくださり誠にありがとうございました!
091117 修正
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