『六道 骸』
これが僕の名前。六道輪廻の六道に、屍の骸。醜い、汚れた名前。
こんな僕に誰が優しくしてくれるのか…誰が愛情を注いでくれるのか。
現に僕は今まで誰からも愛されず、優しさなど知らずに生きてきた。
僕の足下にはいつも…無数の血だまりと、無数の人だったものが転がっている。
優しさを求めようとする僕の考えとは裏腹に、僕は人をおとしめ、裏切る。
愛を求める僕の体とは裏腹に、僕はその手で、体で人を殺していく。
あぁ…なんて醜く、残酷。
何故、こんな世界に僕は生まれ落ちてしまったのか…。
何故、こんな恐ろしい力を持ってしまったのか。
運命とは残酷なもの、神とはなんて身勝手な存在なのだろうか。
「違うよ。神様はね、み〜んなが幸せに生きられるように配慮してくれてるんだよ」
『ならば、何故僕にはこんな力を授けた?僕はこんな力…望んでいなかった』
「骸が望んでいなくても、その力は骸に必要だったんだよ。だから神様は骸にその力を授けた。ただ、それだけの事さ」
『クフフ…君はまるで自分が神だ。と言うような言い方をしますね』
そう言うと、僕の目の前の彼女は目を見開いた。金色の瞳が一瞬見開かれ、短いオレンジの髪がフワリと揺れる。だが、すぐにいつものヘニャリとした笑みに戻る。
「そうだね。でも違うな、私は只の一般人だもの」
『監獄に普通に出入りする人を一般人とは呼べませんよ』
彼女はコンコン、と僕の入っている水槽を叩く。目線を向ければ、目の前にはあのヘニャリ顔。
「そうだね。まぁ最初から私は普通じゃないからさ。誰も私の事に気がつかない。触れることはできても私を見ることは決してない。まぁ、しいて言うなら透明人間か…はたまたは傍観者と言うべきかな」
いいnamingでしょ?と彼女は笑う。
『クフフ…世界を傍観する者、と言うわけですか』
「近からずとも遠からずってとこだね」
彼女は苦笑する。誰にも気づいてもらえぬ存在。
彼女は簡単に言うがそれはとても辛いこと。
「見えない」ということは実の両親にも気づいてもらえず、孤独な日々を過ごしていくということ。それを笑いながら話せる彼女は…とても強い。
コポ…と僕の口から泡が上がる。それはいつしか天井に届き、消えてなくなる。
彼女はその様子をジッと見つめていた。それから不意にこちらを見つめ、「そろそろ、行くね」と呟いた。
『あぁ…そろそろ時間ですか』
「うん、流石に一つの場所には留まれないからね。そのうち気づかれちゃうからさ」
『また、会えますか?』
「わからない。けど、必ず会えるよ。姿形が変わっても、どんな先の未来でも。必ず会える」
だから、それまでの辛抱だ。と笑う彼女。
僕も笑う、いや、笑う仕草をする。
『また、いずれどこかでお会いしましょう。自称世界の傍観者』
「うん。また、いずれ…バイバイ、私を見ることができた初めての人」
お互いに呟き彼女は消えた。
『いずれ…ですか』
呟き僕は静かに笑う。
『僕も丸くなったものですね。また、などという曖昧な言葉を言うとは』
でも、それもまたいいだろう。そういえば、彼女の名前を聞くのを忘れていた。まぁ、次会ったときにでも聞くとしよう。心の中で小さく呟き僕はまた…暗く深い眠りに堕ちていった。
数年後、僕らがまた出会い。彼女の名はナマエと知るのは、また別の話。
傍観者(お!久しぶり!私を初めて見ることができた人。復讐者の監獄いらいだね?)
(クフフ…えぇ、お久しぶりです。自称傍観者)091117 修正
top