「私ね生まれ変わったら、月になりたいの」
「どうして?」
「だって、月だったらずっと空のそばにいられるでしょ?」
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きれいな夜空。雲一つない闇にポツンと浮かび上がる白銀の三日月。月…彼女が生まれ変わったらなりたいと言っていた。孤独な月…でも、優しい光を放ち、夜道を照らす道標。
「綱吉様。何を見てらっしゃるのですか?」
猫なで声が後ろで聞こえる。振り向けばベッドで半裸姿で眠そうに瞼をこすっている女性が1人。インディファミリーの一人娘。そして、俺の数多くの愛人の1人メイリア・インディ。彼女は潤んだ瞳で、俺を見上げている。いわゆる上目遣いだ。
「ん、なんでもありませんよ。メイリアお嬢様」
「イヤですわ綱吉様。二人の時はメイと呼んでくださいと言ったじゃないですか」
催促するように彼女は俺にすり寄ってくる。俺はそんな彼女を優しく抱き寄せる。
女性の扱いなど馴れたものだ。コイツも周りの奴らと同じ。着飾って自分を綺麗に見せようとするただのメス。俺は彼女から漂うキツい香水の匂いに内心悪態をつきながらも、表向きの爽やかな笑顔は絶やさない。
ポーカーフェイスはあの俺様家庭教師にイヤと言うほどたたき込まれた。
「すいません。そうでしたね、メイ」
微笑んで彼女の唇にそっとキスを落とす。それだけでほとんどの女性は満足したように大人しくなる。メイの場合もそうだ、唇を離せばそこにあるのは彼女の満足そうな笑み。その笑みを見つめながら俺は明日の会議について考える。
△ ▼ △
時は進み、時刻は午前二時過ぎ。外は闇に包まれている。俺は洋服を適当に羽織り、愛人の屋敷を後にした。泊まっていかないかと言われたがそれは丁重に断った。
暗く寒い夜道を1人歩く。空には相変わらず三日月が一つ。俺の歩く道をほのかに照らしている。
月…彼女が好きだと言った月。1人の時よく月を見上げていたと、悲しいとき月を見て勇気を貰ったと言っていた。
俺は空に浮かぶ三日月を静かに見上げた。
「月…か。本当、お前は月みたいだ」
ナマエ。と呟く。頭をよぎるのは彼女の優しい微笑み。
ナマエ…いつも道を見失ったとき、お前は優しく行くべき道を示してくれる。
悲しいとき、1人じゃないよと勇気づけてくれる。
いつも優しく俺に微笑みかけてくれる。優しい…俺の月。
俺の一番の理解者。俺の自慢の恋人。
「今頃きっと、眠い目こすっている待っててくれてるんだろうな」
ポツリと呟き実際にナマエが目をこすっている様子を思い浮かべ、クスッと笑う。
帰ったらきっと『おかえり』って微笑んでくれるんだろう。
それから『今回無理しなかった?』って聞いてくる。
それで俺が『大丈夫だよ』って言ったら安心したように笑うんだろうな。
考えれば考えるほど愛しいという感情が溢れ出してくる。
ナマエ、ナマエ、ナマエ…。
あぁ、早く君の笑顔が見たい。その小さな体をこの手で抱きしめたい。あ、今俺めっちゃ変態っぽい。
月夜語り(扉を開いて彼女の姿を見たとたん、俺は『おかえり』も聞かずに彼女を抱きしめていた)091117 修正
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