複数ジャンル短編 | ナノ
暗い路地裏に佇む一人の少女。

手にしている黒いトンファーには返り血がつき、目の前に倒れている数人の(おそらくは高校生くらいだろう)男達が倒れている。少女の着ている衣類は破られたのかほとんど布切れと化し、本来の役目を果たしてはいない。流石にその格好は寒いのか、少女は小さなくしゃみを一つ零し、どこから出したのか黒い学ランらしきものを羽織った。

そして立ち去るかと思いきや、なにを思ったのかじっとその場から動かず足元に倒れている男達を見つめ続けている。



数分ほど前、私はこの男たちにこの路地裏へと連れてこられた。「ちょっと話があるんだけど」そう言われて。なにやらいかがわしいことを考えているのだろう。全員の顔は醜いと言いようがないほどに歪んでいた。そして、路地に入った瞬間、私の予想は的中する。

一斉にこちらを見たかと思えば途端に硬い地面へと押し倒され四肢の動きを封じられ衣類を破かれた。ビリビリッと衣類の破れる音が響き、露になる私の素肌。それを見て周りの男達の顔には醜い笑みが広がり始める。


これだから、男は嫌いなんだ…。


私は、自身の衣類が破られ、布切れと化していくのを静かに見つめながらくしゃみを一つこぼす。流石に四月の空気はまだ寒い。衣類を破られ、自身の素肌が露になったのにも関わらず平然としている私を不振に思ったのか、それとも興味を抱いたのか、男達はピタリとその醜い笑みと手を止める。


「おい、なんでそんなに平然としていられるんだ?」


リーダーだろうと思われる男が痺れを切らしたのか話しかけてきた。他のやつとは少し違う、少し浮いた格好をしている。簡単に言えばそこら辺に転がってる不良なんかじゃい、本物の――ヤクザの格好(わからないかな)。


「生憎だけど、こういうことには慣れちゃってるんでね」


「残念でした」と嫌味たっぷりに笑えば、右の頬に鋭い痛みが走った。どうやら、私は頬を叩かれたらしい。(一応)女子になんてことするんだ…。


「お前、あの『雲雀恭弥』の妹なんだってな」
「っ…それが?」
「俺達はお前の兄にいろいろと世話になっているんだよ。何回かなぁ。そのせいで悉く女は逃がしちまうし、仕事もろくに出来やしない」


男はそこで一旦言葉を切り、(見せ掛けだが)優しく笑う。


「だから、お前さんに兄さんのかわりに俺たちの相手をしてもらおうと思ってな」
「つまり、恭弥兄さんは強すぎて敵わないから、弱いと思われる妹の私を襲ったと…」
「物分りがよくて結構」
「ふぅん…そう。…ばっかみたい」


はっ、と鼻で笑えばまた頬にまた鈍い痛みが走る。何回殴ったら気がすむんだよ…お前ら。口の中いっぱいに広がる鉄の味。ペッ、と唾を吐き出したらその唾は赤かった。ちょっと深く切ってしまったらしい。

よろよろと立ち上がれば、男は私の胸倉を掴み壁へと投げつける。私の口からは「ぐっ」とくぐもった呻き声が漏れる。


「意地を張るのも大概にしろよ。お前、今のこの状況がわかっててそんな口きいてんのか?あぁ?」
「はっ、そんな甘っちょろい脅しで私が怯むとでも思ったの?私の名前は『雲雀ナマエ』。鬼の風紀委員長と恐れられる『雲雀恭弥』の妹。こんな風に恭弥兄さんが潰した相手の逆恨みを受けるのなんか日常茶飯事なんだよ。それに、お前らは今まで襲ってきたやつらの中で一番無能で、無力で、無謀なやつらだ。そんな小さい『獲物』で私を襲うなんてね」


男達の手にそれぞれ握られている『獲物』、それは――刃渡り10cmほどの『サバイバルナイフ』。まぁ一般人が手に入れることが出来るものとしてはこれが限界だろう。

私の言葉で自身のプライドが傷ついたのか、男たちの顔は醜い薄笑いから怒りの顔に変わる。


「テメェ…優しく接してやろうと思ったが考えが変わった。泣き叫んでも許しを乞いても許さねぇ。ぶっ殺してやる!!」
「あら?私を襲うって初めは言ってたのに、いきなり『ぶっ殺す』?優柔不断だね」


くつくつと挑発するように喉で笑う。


「黙れ!女の分際で俺達のことなめやがって。オメーラ、やっちまえ!!」
「「「おう!!」」」
「はぁ、めんどくさい。これだから男は嫌いなんだよ…」


ポリポリと頭をかきながら立ち上がる。そして目の前に群がる男達を見回したあと、真っ黒なトンファーを取り出し、


「じゃぁ、ここは恭弥兄さんの言葉を引用して…『君たち全員、咬み殺す!』」


ニヤリと笑った。




△ ▼ △





その後は全くと言っていいほど呆気なかった。全員数発ずつ殴って終わりだ。


「くだらない…」


小さな動作で返り血を払う。時々目の前の男どもは「うぅ」と唸る。まだかろうじて息はあるらしい。その声を聞き私は目の前のゴミとも呼べる男たちを見下し。


「へぇ、まだ息があったんだ。じゃぁ、もう一ラウンドいけるね」


ニヒルに笑うともう一度トンファーを構えなおした。




△ ▼ △





ある学校の一角。ある教室の前に掲げられている看板には『応接室』と書かれている。突然「バーン」と音がし、その扉が勢いよく開かれる。その風圧で雲雀の机の上の書類はすべて至る所へと散った。


「ナマエ…扉は静かに開けろと何回言ったら分かるの」


並盛最強と恐れられる青年・雲雀 恭弥。私の兄は散らばった書類を見つめ、私を睨んだ。眉間にしわを寄せながら睨む兄に軽くおどけて見せる私。兄弟の恐ろしいほど大きな殺気が辺りを包み込む。

ちなみに、私たちに自覚はない。


「んな細かい事なんてどうでもいいでしょ。それより、これ」


ほとんど布切れ状態のワイシャツを捲り、腕をみせれば兄の眉間の皺は更に深くなる。それはそうだろう。私の腕にあるのは無数の切り傷。しかも未だにその傷口からは血が流れ、応接室の床には無数の血痕。てんてんと私の足元に続いている。そして私の格好はほとんど下着姿に近い。


「またとんでもない格好で帰ってきたね。また誰かを殺ってきたの?その様子からすると、今度は隣町の奴ら?」



正確には貴方のとばっちりを受けただけなんですけどね。そう言い返したい気持ちを抑え、いかにも「そうだよ」というように自信満々な顔をする。


「うん。『黒曜中』って名前だったと思う。しょぼい奴らだと思ってちょっと油断したらこうなった」
「あれほど『油断するな』って言ったのに」


そう言って私の目の前で大袈裟にため息をつく。痺れを切らして「早く治療してよ」と軽く睨むと渋々、だけど丁寧に包帯を巻き始めてくれる恭弥兄さん。

口はキツいけど結局は優しいんだよね。

ぶつくさ文句を言いながらも治療してくれる兄の姿を見て思わず口元が緩んだ。


「ありがと…恭弥兄さん」
「?…何か言った?」
「別にー…」


はっ、と見下したように笑えば「ドカッ」とトンファーが落ちてくる。


「ってー!」
「治療してやったのにそんな態度をとるからだよ」


痛さで涙目になりながら兄を見れば、兄はすでにそこには居らずいつの間にやら机に戻っていた。散り散りになった書類の山も元通りになっている。いつの間に…。

なにやら負けたような気がして、出るときは入るより勢いよく扉を閉めてやった。





とばっちり
(恭弥兄さんのバーカ!)
(仕事終わったら…咬み殺す)

091117 修正


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