複数ジャンル短編 | ナノ
誰でも愛しい人の誕生日は全力で祝ってやりたいと思うのが普通のことだと思う。けど目の前の愛しの彼は沢山の女性軍に囲まれていて一歩出遅れた私は近づくことさえできなかった。
真ん中にいる私の一応彼氏――獄寺隼人はきゃいきゃいと自分によってくる女性をうっとおしそうにしながらもプレゼントを渡されれば満更でもなさそうに一瞬瞳を柔らかくしているし。

私の存在を忘れてやしませんかね、獄寺さん。一応彼女的存在がここにいるんですけどね。

私は誰から見ても分かるくらいにむすっとして右手にある小さな小箱を弄ぶ。もちろんこれは隼人への誕生日プレゼントで、昨日私が商店街で3時間もかけて厳選したものだ。中身はおそらく隼人が喜ぶと思われるシルバーアクセサリー。

見た目の割りに値が張っているものが多かったので驚いた。おかげで私は今月をあと数百円で生きていかなければならない、というのは過言だとは思うがそのくらい高いお買い物だった。未だに女子軍に囲まれている彼氏を一瞥し私は下着が見えるのを気にせず机に足を組んでふてくされ始める。


「ナマエどうしたの?なんかすごく機嫌悪そうだね」
「なにふてくされてんだナマエ」
「武、それにツナ」


丁度いいストレス発散相手…ならぬ丁度いい話し相手が来た。
おどおどしながらも私を心配しているツナにニカッとスポーツマン特有の爽やかスマイルを向けてくる武。二人は私の隣と前の席にそれぞれ着く。偶然そこはどちらも女子の席だったので開いていた。

教室内のほとんどの女子は今私の彼氏のところだ。あーキャイキャイ煩い。


「べっつにー…どこぞの爆弾小僧が構ってくれないだけ」
「それって獄寺君のことだよね」
「アイツのとこすげーよな」
「ここに一応彼女がいるんですけどねー」
「ははっ、ナマエ完璧にふてくされてるのな」
「まぁまぁ」
「へーんだ」


ぷぅっと頬を軽く膨らませる真似をすれば目の前のツナは小さく苦笑した。隣の山本は隼人に冷やかし的なものをいれている。もちろん本人は無自覚だ。

天然ってこういうところは怖い、そう思う。そしてやけに鋭いところも。私は冷やかしを入れられている隼人を見る。女子に囲まれもはやあれはあるいみ団子に近いかもしれない。


女子団子。いかにもまずそうだ。しかも香水臭そう。真ん中にいる隼人はさぞ苦しんだろう。さっきよりも眉が真ん中によっている。不機嫌になっている証拠だ。


「こうやって見るとさ、本当獄寺君って女子に人気あるんだってわかるよね」
「軽く20人くらいはいるからな」
「あまいね武、学校内の大半の女子は隼人にぞっこんだよ。ほら、あそこ」


そう言って廊下を親指で指し示す。そこには各々の手に大きさや色合いが様々な箱や袋を抱えたり持ったりしている同い年から先輩までがいる。隼人が出てくるのを待っているのだろう、その全てが全て今にもこの教室内に入ってきそうな勢いで、もはやドアには近づけない状態。流石のツナたちもこれには驚いたのか一瞬だけ息を飲む。


「うわっ」
「こりゃ、すげーな」
「ね?やっぱり外人ってモテるのかね」
「ナマエ、獄寺君はハーフだよ」
「外人には変わりない」
「ははっ、確かに。やっぱナマエはおもしれーな」


武はけらけら笑って私の髪をくしゃくしゃと撫でる。やめろよー、とかいっても何気にそれが心地よいので私は大人しく撫でられる。そんな光景をツナは微笑ましそうに眺め、不意に、あ、と驚いたように声を上げた。


何事かと私と武もじゃれあいをやめて顔を上げれば目の前にいたのは先ほどから話の話題になっている人物。
眉を真ん中に寄せ不機嫌丸出しの――獄寺隼人。


「ナマエ、ちょっとこい」
「は?え、ちょ、おい隼人!?」
「いいから」
「ちょ、おま、今ツナ達と」
「ナマエ、いってらっしゃい」
「授業には間に合わせろよー」
「おいぃいいいい!!!」


何事もなく送り出してくれやがる武とツナ。この、裏切り者め!

何時の間にあの女子軍団から脱け出したのか隼人は私の腕を引っ張りドアへと歩き出す。でもそこに待ち受けているのは沢山の女子。これじゃ廊下に出ることさえもできない。


「どけ」


と思ったらあっさり通れました。隼人がいつもより数倍低い声でそう呟けばまるで人ごみが割れるようにザーーと女子が顔を青くして道を開ける。いつもなら隼人がそんな事を言ったところでびくともしない女子軍だが、今日の隼人とは一味違った。眉間に寄せられた皺、真ん中によった眉、そして低い声。完全に隼人はキレていた。唯でさえ見た目が怖いのに、キレているせいでさらに数倍怖い。私でさえもその声に背筋が凍ったほどだ。




△ ▼ △





しばらくしてつれてこられたのはお約束の屋上。
空は今の雰囲気にまったく似つかないほど快晴で思わず八つ当たりしたくなるほどだ。私をここにつれてきた張本人は屋上に着くなり私を抱きしめてフェンスにもたれかかった後微動だにしない。掴まれているのは腰なので、腰が弱い私にとっては最高級の拷問。しかも私の左肩には隼人が顔を埋めているのでこそばゆい。

必死に体を動かしてもやはり男と女。力の差は目に見えている。暫くその体制から逃れようとしていた私だったけれど隼人は離してくれる気はまったくないと知り大人しく胸に背中を預けることにした。暇を潰すように空を見上げれば晴天。まるでツナのようだと心の片隅で考えた。


ツナは大空。この空みたいになんでも飲み込んでしまう。なら私の後ろにいる隼人はなんなんだろうか。――ツナは大きな大空なら、隼人は嵐かな?
ふと、そんな考えが浮かぶ。どうしてそんな考えが浮かんだのかは私でも分からない。


でも、まずはこのなんともいえない雰囲気をなんとかしなければとは思う。


「……は、隼人」
「……。」
「…おー…い。隼人さーん?」
「……。」
「獄寺隼人さーん」
「……んだよ」
「はい?」
「ムカつくんだよ!」
「っ!!」


ずっと無言かと思えばいきなり怒鳴られた。しかも至近距離で怒鳴られたので耳がキーンとなって私にはたまらない。それをみた隼人は慌てて私から体を離す。
そして小さく一言謝ってきた。私もいいよ、といって許す。


「で、何がムカつくの?隼人」
「オメーが、俺以外の奴と話していたのが。しかも嬉しそうにヘラヘラしているから…」


独占欲の塊か、コイツは。自分も女子に囲まれて少し喜んでいたくせによく言うよ。私は小さく呆れ気味にため息をつき俯く隼人に歩み寄る。


「バーカ」
「なっ!!え…これ…」


小さく隼人の頭を小突きずっと持っていたプレゼントを渡す。我ながら強引な渡し方だとは思ったがまぁいいだろう。TPOなど知ったことか。隼人は箱を渡されてポカンとしている。そんな彼に私はただ淡々と話した。


「私だってさ、ムカついていたよ。隼人が他の女子からプレゼント貰って嬉しそうにしていたから…」
「え……な…え…?」
「金魚かお前は」


もう一度頭を小突けばやっと頭が動き出したのか隼人は一気に顔を赤くする。こういうところは初心なんだよね。あー可愛い可愛い。


「え、てことはお前も…」
「そ、隼人が武達に嫉妬していたように、私も女子に嫉妬していましたが何か?」


へーんだ、とワザとむくれて見せれば隼人は一瞬瞳を見開いた後嬉しそうに微笑んだ。それにつられて私も微笑が零れる。


「俺達、似たもの同士だったんだな」
「だね」


お互いに笑いあってどちらからともなく唇を合わせあう。仄かに暖かい熱が体中を駆け回ってとても幸せな気持ちで満たされた。名残惜しそうに唇を離せば隼人に抱きしめられる。さっきみたいに強引じゃなく、優しく壊れ物を扱うような優しい抱擁。


「ナマエ、プレゼント、サンキュ」
「どういたしまして」


抱きしめられながらニッと笑った。そしたら少し力が強められる。シャンプーと仄かな煙草の香りが鼻をくすぐり、暖かいぬくもりが体全体を包み込む。なんだかもっと密着したくなって私からも抱きしめ返したら「な!!」っていう驚いた声が聞こえてきたので笑えた。そうれもそうか、私から抱きしめ返したことなんて今までなかったから。

だから、今日は特別だ。だって大切な彼氏の誕生日なのだから。少しくらいサービスでもしてやろう。


「隼人…」
「ん?」





Buon Compleanno
(お誕生日おめでとう)

獄寺初夢がまさかの誕生日夢。最後のイタリア語はあっているかどうかわからにので不安です。ともかく、隼人誕生日おめでとー!
091117 修正


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