「ねぇ、ママ。王子様ってさ可哀想だよね」
「ん?どうして?」
「だって、この本の王子様は好きでもない人と結婚させられちゃうんだもん。自由に生きられる王子様っていないのかな?」
私は五歳のころそんなことを母に話したことがある。あの頃の私が読んでいたのは、ある国の王子が好きでもない王女と結婚させられる話。なぜそんな本があったのかも分らないが、ハッピーエンドではなかったのは確かだ。
▽ ▲ ▽
あれからいつの間にか十年の月日がたっていた。私は今ボンゴレ暗殺部隊・ヴァリアーのに所属している。私の専門は雑魚の片付けや、戦場の参戦。毎日毎日戦場に赴き、大量の血を浴びて帰ってくる。勿論自分のものではなく、敵の血を。
今日も私は黒のスーツを鮮血で綺麗に染めながら帰ってきた。よろよろと、だがしっかりと歩みを進めていく。誰もいないのか、シンと静まり返る廊下を一歩一歩確かめるように歩く。やっと自分の部屋のドアが見え、早くベットにダイブしたいばかりに私は必死に歩みを速めた。
――今回のはさすがにきつかった。あんな数の人数を相手にしたのは何年ぶりだろう…。私がいったときにはその戦いはほとんどけりが付いている状態だったし、仲間はほとんど動かぬ屍となっていた。そこから逆転するのは容易ではない…。一人最低でも50…いや60くらいだろうか…。
そんなことを考えながら私はベッドへとダイブしようとして、ピタリと止まった。
なにかおかしい…この違和感、なにかある。それに、この気配は…。
「…お前か、ベルフェゴール」
「しししっ。ばれちゃったか」
声をかければ誰もいないはずの私の部屋から返事が返ってきて、面白そうに笑いながら私のベットの「上」から王冠を被った王子が降りてきた。
私のベッドの上になんつーもん作ってんだテメェ…。
「当たり前だろ。お前の気配なんか今晩の夕食を当てるより簡単だ。」
「ふーん…今度からはベットの中に通路を作っとくか…面白くないな〜」
「おい!聞こえてるぞコノヤロー。ベットの中っつたか?!中って!?」
「うししっ。なんのことやら」
ごまかしたよコイツ。
はぁ…と私は溜息をつき、目の前に張られた良く視ないと分らないワイヤーを指でピンッと弾く。
「ご丁寧にトラップまで仕掛けるとはね…」
「ししっ。だっていつまで待ってもナマエこないんだもん、王子暇だったから」
「暇だからってトラップをしかけるな!つか、堂々と不法侵入するなよ」
「だって俺王子だもん」
でたよ俺様発言。ベルはいつもこう言って誤魔す。まぁ、それを許す私も私なんだけど…。甘いのかな、私。
そう思いながらふと、ベルの王冠に目がいく。そういえば五歳のころ王子様の話をしていたんだっけ…母さん、元気にしてるかな。
「…、い…おい…おい、ナマエ?」
「…え…あ!うおおおお!!!」
「グォオオオ!」という効果音をつれ、目の前に迫るのは大量のナイフ。その全てを避けるように私は大きく後ろに跳躍、今まで私がいたところには大量のナイフが突き刺さる。
「なーんだ…はずれか。」
「うおぉおおおい!なーんだじゃねぇよ!いきなりなにしやがんだテメェ!」
バクバクと早く脈打つ心臓を静まるまで待ち、私は体制を立て直して目の前のナイフの山を見た。
あ、危なかった…。
「だって〜ナマエ呼んでも反応しないんだもん」
「だからってナイフを投げるか?普通…」
「うしし。俺にとってはこれは普通」
「お前の日常はサバイバルですか…」
驚いて暴言はいちゃったじゃないか…。ああああ、私は一応女で物静かな女性なのに…。
「物静かは外れてると思うけどな〜♪」
「こらそこ!さりげなく心読むなよ。いつのまに読唇術得とくしたんだ」
「俺王子だもん。その気になればカメ○メハだって打てるよ」
それはさすがに無理があると思うのですが…。
「それよりナマエ、久々に手合わせしねぇ?」
突然そう言いだしベルは嬉々とした様子でナイフを取り出す。ベルの場合は手合わせという名の殺し合いだ。そう考えていると、さっきまで消えていた疲れがどっと押し寄せてきた。
忘れてた…私今すっごい疲れてるんだった…。
「ごめん。今は疲れてるから無理」
「えー…やろうぜー!王子暇なんだよー!」
額に手をあて、誘いを断れば怒ったような声が返ってきた。見れば、ナイフを空中でふわふわ漂わせながらベルは頬を膨らましている。不覚にも「可愛い」と思ってしまった。コノヤロウ…。
「今戦っても私弱いよ?それでもいいの?」
「…。」
宥めるように静かに話す。ベルはしばらく考える仕草をした後、「分ったよ」といってナイフをしまい始めた。
ベルが簡単に引き下がるなんて意外だなー…。明日は雨でも降るかな…。
さりげなくひどいことを考えていると「ナマエ」と呼ばれた。なにかと振り向くと唇になにかが当たる感触。それにちゅっというリップ音。
「………へ?」
い、今の…キス?
目を見開きベルを見れば、そこにあるのはベルの満足そうな顔。
「ししっ。手合わせのかわりな。ごちそーさま♪」
「バイビー♪」と言って、ベルは部屋から出て行く。その姿を見送った後、私は無言でベッドにダイブした。
い、今のファーストなんだけど…。ど、どうしよう。心臓が、五月蝿い。
「やばい…心臓が壊れそうだ…」
私は真っ赤になった顔を隠すように枕を抱きしめた
自由な王子様なんて本当はいないんだと思ってた…。けど、意外と近くにいたんだ。自由に生きているとても素敵な王子様が…。
自由王子(自由な貴方に私は一瞬で心を奪われた)091117 修正
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