複数ジャンル短編 | ナノ
「Trick Or Treat!」
「……。」


そんな声を出して満面の笑みを浮かべて手を差し出したのは小さな小さな殺人鬼。




△ ▼ △





時刻は正午をちょっと回った深夜。突然鳴ったインターホンに、こんな夜に誰だ、などと愚痴を零しながら開けばそこに居たのは殺人鬼。最後にあったあのときから少し身長が伸びていたが格好はさほど変わらず、その顔に浮かんでいる笑みもまったく変わっていなかった。


「いや、なんでアンタがここにいるの、人識」
「何って?かはは、今日はハロウィンだからな、ナマエにお菓子を貰おうと思ってさ」


そう言ってまた先ほどと同じ言葉を繰り返す人識。仮にも全国指名手配中の殺人鬼が堂々となにやってんだよ。
そう突っ込みたくて仕方がないが、とりあえず此処だと何かと危ないので目の前の殺人鬼を半場強引に部屋へと引っ張り込んだ。戯言遣いの少年などに見つかったのなら別にいいが、そのほかの裏世界の住人に見つかると厄介だからだ。
とくに十三の十字架を背負った双子と最強の請負人。あの二人に私と人識が一緒にいるところを見られてしまうと、とんでもないことになる。前に澄んでいたアパートはその二人(と人識)のせいで崩壊したのだ。


「お、部屋に強引に引きずり込むなんて今日は積極的だなナマエ」
「だまれ刺青放浪少年。なに堂々と家に来てるのさ。少しは隠れてきなさいよ。戯言遣いの少年に見つかったのならまだしも、出夢や潤さんに見つかったらとんでもないことになるでしょーが」


けらけらと嬉しそうに笑う頭を小突きリビングへと戻る。人識はその後ろをさも当たり前のように着いてきて、いままで私が座っていた座布団に胡坐をかいて座る。
毎度のことながら、人識は私の部屋をまるで自分のもののように使う。なんど注意しても直す気はないらしく、ずっと笑っているのでいつのまにか私も注意するのもやめていた。時間の流れとは怖いものだ。

簡単に入れたインスタントのホットココアを彼に差し出し私もまた、人識の目の前に座る。


「で、何で来たの?」
「だーかーら、Trick Or Treatだって!今日はハロウィンだろ?」
「……ハロウィン?」


まだそんな時期じゃなかったと思うんだけど。半分疑い気味に携帯を開けば映し出される日にちは10月31日。確かにハロウィンだった。

最近何かとごたごたしていたので私の中の日にち感覚は狂っていたのだろ。戯言使いの少年と共に行動するとよくあることだ。


「あ、本当だね」
「な?だからTrick Or Treat!」


ニッと笑いながら手を差し出す人識。そんな彼を見ながら私はホットココアを一口飲んで考える。

そんな事を言われても、私のうちにはお菓子なんて類は一切存在しない。というよりお菓子を買うほどの時間がない。
どうするべきか、と考えた私の視線は人識がもっているマグカップへと注がれる。


「それ」
「ん?」
「そのホットココアがお菓子」
「……は!?」


我ながら名案だなと考えまた一口ホットココアを飲む。そんな私の目の前では、人識が素っ頓狂な声を上げた。いや、近所迷惑だから…。


「それは流石にないだろナマエ。普通お菓子っていったらこう、キャンディーとかクッキーとかさ」
「んなもん買う余裕と時間と労力なんて私には存在しない」


唯でさえ最近は戯言使いの少年に付き合わされたり、潤さんが訪問してきたり、友ちゃんから呼び出しがきたりと忙しいのだ。そんな時間など私には存在しない。というか存在しなくてもいい。

そう言いきって、くあ…と欠伸を零す。流石に夜中は眠い。目の前では人識が心底悲しそうに目の前に置かれているホットココアをがん見していた。例えるならば、お楽しみにしていたプレゼントの箱の中身が、まったくつまらないものだったときの子供のよう。


数分間たっても目の前におかれて冷め始めているホットココアとにらめっこをしている人識。その目の前で私は暇を弄ぶかのように、戯言遣いの少年に借りた本を読んでいた。
題名は「一目で分かる!世界のメイド辞典」。なんとも戯言遣いの少年が持っていそうな本だ。それを普通に読書の本代わりとして読んでいる私も私だけど…。しかも表紙の絵に反して、中身は以外と知識がつまっていて面白い。


「なぁナマエ、本当にコレがお菓子なのか?」
「当然意外の言葉はまったく浮かばない」


かけられた声にきっぱりと言ってやれば人識はうー、と唸ってまたがん見。いい加減飽きてこないのかと呆れながら、私は手に持っていた本を静かに閉じた。

時刻は午前1時。本当なら私は既に夢の中。だけど今日は突然すぎる来訪者のおかげで完全に夜更かしだ。


「人識…私そろそろ寝たいんだけど」
「えー…」
「えー言うな」


ふてくされる白い頭に持っていた本を軽く落とす。明日は戯言使いの少年から、急用のために病院に来てくれといわれているので、あまり遅くまでは起きていられない。
だけど目の前の小さな殺人鬼は一向に変える気配すら見せない。どうにかしてほしいものだ。いっその事潤さんでも呼んでしまおうか。あ、でもそうするとまた引越し手続きとかでめんどくさくなるからなー。

次第に堕ちてくる瞼と格闘しながら私は目の前の少年を見る。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、人識は唐突に「あ!」と叫んだ。だから近所迷惑だって。


「お菓子がないなら悪戯だな、ナマエ」
「は?!」


今度は私が素っ頓狂な声を上げる番だった。そんな私を気にもせず人識は「そうだった」とどこか嬉しそうに言う。訳が分からない私はただただ頭にクエスチョンマークを上げるだけ。目の目には嬉しそうながらもどこか怪しく笑う人識の姿。


「と、言うわけでナマエ。お菓子がないから悪戯」
「だからお菓子はそのホットココアだっていったでしょ」
「俺の中でこれはお菓子に入らないから却下」
「おい!」


かはは、と笑い私の提案を一蹴りした人識。
人がせっかく出してやったのに、コノヤロウ…。
呆れて反論すらめんどくさくなってきた私は頬杖をつき人識を見る。もはや意識は半分夢の中だ。


「で、その悪戯って?」
「これ」


そう言うや否や急接近する人識の顔。驚いて固まった私の口にはなにかふにゃりと柔らかいものが押し付けられた。

顔が離された瞬間一気に目が覚めたのはいうまでもない。




お菓子がなければ悪戯を
(かはは、ごちそーさん)
(てかアンタ、これじゃぁTrick Or TreatじゃなくてTrick And Treatでしょうが!!)


2009年ハロウィン零崎人識Ver
091031 執筆


top
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -