複数ジャンル短編 | ナノ
弟から届いたメールの通りに門を通り、練習場の扉を開いた瞬間、大きな爆音が響いた。


「これはまた派手だねぇ」


至る所から様々な個性の攻撃が見える光景に自然と笑いが零れた。そんな私に近づいてきたのは一人の男性。


「君か?爆豪の姉は」
「はい、爆豪ナマエといいます。弟がいつもお世話になってます」


聞いていた通り、浮浪者のような格好のA組担任の先生に頭を下げた。気だる気な瞳をまっすぐに見て「それと」とそのまま言葉を続ける。


「弟のわがままでご迷惑をかけてすみません」
「気にするな。それに、君を呼ぶことで爆豪の技の範囲を広げられるなら、此方としても助かる」


ふぅ、と息をつく先生の姿に、これは随分と心労をかけているようだと苦笑いを零す。英雄へ強い憧れを持つ弟だがその行動は荒っぽいものが多い。そのせいで周りの人間にはどうしても色々と迷惑をかけてしまうのだ。小さい頃から母と私の悩みの種でもあるそれは相変わらず健在のようで、それでもそんな弟からの頼みごとを聞いてしまう私はだめな姉だと自嘲的な笑みが零れる。


「おせーぞ、姉貴」
「まずは来てくれたことへの御礼をいいなさい。私はデリバリーじゃないんだから」


さっき練習場全体を見た時、少し奥の方にいた弟はいつの間にやら私の傍へと来ていた。サポート会社へと書いていたコスチュームで少しだけかっこよくなっている弟の頭をうりうりと撫でる。「触んなブス!」となおも悪態しか出てこない頭に鉄拳を落として、そのまま社会人として獲得した営業スマイルで先生の方を見れば、わずかに驚いた顔をしていた。


「それで、私はどのようにすればいいですか?」
「え?あ、ああ、とりあえずこの時間は個々の個性を理解し、更に性能を高め、己しか使えない技などを編み出す時間だから、君たち姉弟のしたいようにしてくれて構わない。必要な土台などあれば、そこにいるセメントスに頼んでくれ」
「わかりました」


近づいてきたセメントのような先生にも「よろしくお願いします」と頭を下げ、殴られたところをさすっていた勝己のコスチュームの首部分をつかんで引きずっていく。
とりあえず私と勝己の個性的に必要なのは人がいない広い場所。きょろきょろと周りを見ながら歩いていると、一角に人のいない良い場所を見つけたのでそこへと歩みを進めた。


「離せクソアマ!自分で歩く!」
「そう?じゃぁあとは自分で歩きな」


手を離すついでにクソアマ発言に対しての罰として鳩尾に軽い膝蹴りを一つかまして、体を伸ばしながら歩いていく。
後ろから「クソが!」と声が聞こえてきたがそれはあえて聞こえないふりをした。ついでに背後から手での攻撃も来たが、予想していたので少し状態を動かすことで避ける。


「避けんな!」
「背後からの攻撃なんて卑怯な手を使うやつの、攻撃なんて当たりたくないからね」
「ああ゛!?」


がるるる、と噛みついてくる弟を軽くいなして、準備運動を終える。さて、と改めて弟へと向きなおり「なにからする?」と聞けば、未だに不機嫌そうな表情は消えないが「技術の向上」という返事が来た。


「じゃぁ、今日はとりあえず手合わせでいい?」
「個性はどうすんだ」
「今回は使おう。本気で叩きに行くから、勝己も本気できな」
「俺はいつも本気だわクソが!」
「そうだったね」


弟の頭に手を抜くという思考はない。変わらないなぁと笑いながら、お互いに構えを取った。私はヒーローになるつもりはなかったので、特にコスチュームというものはないが、弟との手合わせをするので爆発や熱に強い素材の服は持っていた。今日もそれを持ってきているので、個性を使ってぶつかっても支障はないだろう。
「死ねや!」という気合いと一緒に飛び込んでくる勝己の攻撃を避け、そのまま蹴りでの攻撃で反撃する。それを爆破で避けた勝己を追うように、私も手から爆破を出して追えば、鋭い眼光が私を睨んだのでにっこりと笑みを返してやった。




△ ▼ △





「すごいですね…」
「あぁ…」


遠くで姉弟の手合わせを見ているセメントスの言葉に相澤が応えた。爆豪が外部の人間である自分の姉を呼びたいと言った時、かなり教師陣が驚いていたが確かに彼女は呼んで手合わせをさせる価値がある人間だった。
実際に今の手合わせ中にも、お互いに思いついたらしい技を繰り出しじわじわと使用できる個性の応用の幅を伸ばしている。この弟にしてこの姉あり、というべきか。頭脳とセンスは弟と同等のモノを持っている。
ヒーローを目指していないのが惜しいくらいだと思うくらいに、彼女のセンスもまたずば抜けていた。


「ただ、せめて威力の調整とかはしてほしいですね」
「まぁ、爆豪の力は伸びてるんだがな…」


「死ね!」「うるせえ!てめえが死ね!」と物騒なやり取りを繰り返しながらあっちこっちで爆破音を繰り返し、セメントスが作成したステージを破壊している姉弟の姿を見ながら相澤がため息をつき、セメントスは苦笑いを浮かべた。
勿論、姉弟の手合わせと言う名の破壊から逃げるA組生徒の悲鳴があちこちから上がっていたのは言うまでもない。


その後、交代で入ってきたB組生徒達の目の前には無残に破壊されつくしたTDLがあり、ブラドキングが相澤に敵襲でもあったのかと焦った顔で聞きに行ったのは別の話。




爆豪姉弟のTDL
190216 執筆


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