複数ジャンル短編 | ナノ
※下ネタ発言有
上記大丈夫な方は下へスクロール











このA組で一番エロい奴は誰か。
そんな質問をすれば、全員口をそろえて小さな背丈の彼の名を迷わず上げるだろう。
滝のように涙を流して泣いても、悲痛に満ちた声で叫んでも、それは日ごろの行いが悪いのだ、諦めて受け入れろと、俺はその小さな肩を叩いてやることしかできない。
そんなエロの化身のような奴と一緒にいる人間がいるなんて、俺たちは想像もできないし、想像すらしなかった。
しかも、もう女子の理想を詰め込んだような、まさにわがままボディという言葉と、エロティックという言葉を好きに使えるような女子。目の前でたわわに実った果実のような胸に抱き着きながら、まるで母に甘えるように彼女に抱き着く小さな雄英生徒――峰田を、これほどまでに心の底からうらやましいと思うなんて、きっと後にも先にもないだろう。


「と言うか、そのエロティック全開な女子誰だ峰田!」
「オイラの幼馴染」
「はぁ!?」


ここが雄英高校の前で、かつ他にはもう帰宅する生徒がほとんどいなくてよかったと、心の底から思った。




△ ▼ △





ヒーロー科は他の科よりも授業数が多い、そのせいで帰宅時間も他よりは遅い。自然と帰る時はクラスメイトで集まり、今日の授業の反省や感想、意見交換などをして帰ることが多くなる。
そんな俺たちの前に現れたのは、校門にのんびりと寄りかかる私服の女子。ぱっちりした目、ふっくらした唇、ほどよく肉のついた体、なにより、果物入れてるんですかと思わず聞きそうになるほどのでかい胸。どこをとっても文句のつけようがない女子がそこにいた。


「なぁ、あの美人だれよ」
「誰か待ってるのかな?」
「いやでも、すっげー美人…というより、色気やばいよな」
「へぁ!?」
「こら上鳴君!失礼だぞ!」


こそこそと隣の緑谷と話していると、聞こえたらしい飯田からの叱責が飛んできた。「でもよー」と色々言いながらも近づく俺たちに、不意に女性の視線が向いた。
声すらもまだかけられていないのに、その視線だけでビシッと石像のように固まってしまった緑谷と少し眼鏡にひびが入った飯田。やっぱりお前も似たような思考を少なからず持っていたのか、と飯田へじとっとした目を一度向けて、改めて女子を見れば、彼女はその瞳をやんわりと和らげてとろけるような笑みを向けた。
正直に言おう、その笑みで少し勃った。それくらいの破壊力だった。


「みっちゃん、お疲れさま〜」
「みみみみっちゃん!?」
「誰の事言ってるんだ!?まさか緑谷か!?お前あんなうらやましすぎる女子と知り合いなのか!?紹介しろ今すぐに!!」
「ちちちちちがうよ!僕は知らないよ!」
「おおおおおお落ち着け二人とも!」


あばばばばっと奇声を発しながら3人で、誰だ、お前か、とお互いの顔を見ていると「おーう」と彼女の声への返事が俺たちの下から飛んできた。見ればそこには見慣れたグレープ頭。


――え?いやいや嘘だろ?


多分、その時俺たちの気持ちは同じだったと思う。
「悪いな」と言いながらたたたっと軽く小走りで近寄っていった峰田を嬉し気な笑顔で迎え入れるのは、あの女子だ。


「少し授業が長引いてさー」
「そっか、お疲れさま」
「あぁ、さんきゅ」


まるでそうするのが当たり前のように、峰田を我が子のように抱き上げる女子。
いや、待て、え?あいつ何されてんの?なんで抱っこされてるの?しかもいつも涎とか垂らすくせして、なんで普通に会話できてるの?賢者なの?
沢山の疑問が上がっては消え、上がっては消える。受け入れられない現実だったのか、隣の飯田はショートしているし、緑谷も顔から生気が抜けている。俺も気を張っていないともう別の世界に意識を飛ばしそうだ。
けれど、目の前で繰り広げられている会話は確かに現実で、俺たちは夢を見ているわけではない。正直夢であってほしいと心の底から思って頬を抓ったが、痛いだけだった。泣きたい。


「ん?おーい、上鳴達さっきからなんでそこで固まってんだよ。こっち来いよ」


そんなお気楽な声で俺たちの意識は一気に覚醒した。そして冒頭の会話へと戻る。




△ ▼ △





目の前にいるのは変わらず、エロかわいい女子にだっこされている峰田。


「お、幼馴染?」
「おう。オイラん家のお隣さんなんだ。ちっちゃいことから一緒なんだぜ?」
「小学生の時までお風呂一緒に入ってたもんね〜」
「そうそう、あの時は色々とおいしかった」
「あの時から私のおっぱいおっきかったからね〜」
「そうなんだよ、程よく柔らかかったしな」


懐かしい懐かしいとお互いの思い出を語り合う二人。その姿はとても微笑ましいが、一点、聞き逃してはいけない単語を聞いてしまった気がした。


「まてまて、今そっちの彼女なんて言った?」
「え?おっぱい」


ぱちくり、と不思議そうに瞳を瞬かせてその唇から紡がれる単語にめまいがした。と言うか、飯田は倒れた。後ろで緑谷の悲鳴が聞こえるが、それに気を配る余裕が俺にもない。
あの可愛い唇からまるで峰田が発するような単語が聞こえたなんて死んでも認めたくない。しかし、そんな俺の願いを破壊するように彼女の口からは信じられないような単語がつらつらと出てくる。


「そう言えば、前にみっちゃんが読みたいって言ってたエロ本見つけたよ」
「まじ!じゃぁ今日一緒に見ようぜ!」
「うん!少しだけ先にみちゃったんだけど、いい汁具合で、ストーリーも良かった」
「オイラは断然おっぱいや体の書き方が好きだなぁ。あの人のは常識がエロいからな」
「わかる!あと異形の書き方もいいよね。まさにエロのために生み出されたような触手とか性質とかね」
「そうなんだよ。あのエロさはなかなか出せねえよ」


おかしい、これは男女の会話のはずだ。けど、目を閉じて会話だけ聞くと思春期真っ盛りの男子高校生同士の会話にしか聞こえない。
「飯田君しっかり!」と背後から聞こえてくる緑谷の悲鳴を聞きながら、目の前できゃっきゃと交わされる性的な会話。
もう何から受け止めていけばいいのかわからなくなった俺の思考もとうとうショートしてしまい、俺も飯田のようにその場に倒れた。
すまねえ、緑谷。男二人を運ぶのは大変だと思うけれど俺はもうこの現実を受け止めきれない。後は任せた。


後日、倒れた俺たちの顔は絶望に満ち満ちていたと、緑谷が素直な感想を聞かせてくれた。




残念すぎる幼馴染
190205 執筆


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