複数ジャンル短編 | ナノ
平日休みが取れたので久しぶりに実家に帰ると、弟の忘れ物を届けてくれと母に言われてしまった。へろへろとは言わないまでもそれなりに疲労して帰ってきた娘に意外と厳しい母である。
しかし、生活面で色々とサポートしてもらっている手前、嫌だとは言えずに私は今雄英の前にいる。一つ違いがあるとするなら、校門の前にマスコミが沢山集まっているという事だ。
何か事件でもあったのかと耳をすませてみれば、どうやらあの平和の象徴であるオールマイトがここの教師をやっているらしい。
ヒーロー科とも聞こえたので多分弟のクラスも受け持っているんだろう。随分とうらやましい時期に入ったなぁと考えながら、手に持った袋に入った荷物をどうやって弟に届けるか考える。
このまま突入してもなんちゃらバリアが作動して入れない。かといってこのマスコミをかき分けて中に入れてくださいとも言えない。今誰かを入れればそこに便乗して大勢のマスコミも学校に入ってしまうからだ。
うーん、と思考を巡らせていると、ガラガラと何かが崩れる音が聞こえてきた。見ればさっきまでマスコミを阻んでいた壁がまるで砂のように崩れ落ちていく。おそらく誰かの個性なんだろう。それにしても随分と強行手段に出たもんだとぼーっとその場に立っていたのが悪かった。どうやら私の後ろにもマスコミの人間がいたらしく、開いた入口に向けて殺到したのだ。


「君!突っ立ってないで早く進んでよ!」
「え、ちょ、まってください」


ぐいぐいと後ろから押されて流されるままに私はマスコミと一緒に学校内へと入ってしまった。その際、我先にと入っていこうとするマスコミの人たちの波から少し避けたところに、ひょろりとした男性が一人立っているのが見えた気がした。




△ ▼ △





「オールマイト出してくださいよ!!いるんでしょう!?」
「非番だっての!!」


大きなカメラに沢山のマイク。そしてたくさんの人。その奥から聞こえてくる教師の人らしき声とマスコミの声。入る際にもみくちゃにされて、私は今自分がどこにいるのかわからない。それでも前も後ろも右も左も人だらけなのは確かだった。


「す、すいません、通して…通してください」


必死にその人の波から外れようともがいてみるけれど、私の行こうとする方向と他の人が向かおうとしている方向が違ってうまく進むことができない。せめて弟に渡す荷物だけは守らないと、としっかりと袋を抱きしめて必死に抜け出る道を探した。
体力も気力もあるときに巻き込まれたならば個性を使って逃げ出せたかもしれないけれど、あいにく私の体調はそんなに良くなかった。沢山の人の足につまずいて体制を崩せばぐいぐいと押されてよくわからないままに流されていく。


「ちょっと!押さないでよ!」
「そっちこそ!そこどけよ!」


頭上から降ってくる声に謝罪をしながらわずかに見える隙間をぬうように進む。不意に後ろから強く押される感覚がして、私の体はマスコミの塊から押し出された。


「わっ」
「おっと」


そのまま倒れるかと思いきや、開けた視界の先に見えたのは黒い服。ぶつかると覚悟して目を瞑ったが、来たのは私の体を受け止める腕の感触だった。


「あんた、大丈夫か?」
「す、すいません。ありがとうございます…」


頭上から降ってきた声に慌てて顔を上げると、そこには気だるそうな目をした男性が私を見ていた。どうやら私の体を支えてくれたのも彼のようで、隣では金髪でグラサンをかけた男性が食い下がるマスコミに対応している。


「おい、マイク。俺はいったん抜けるからここは頼むぞ」
「は!?まじかよ!?」


「丸投げかよ!!」と大声を上げる金髪の人を置いて、男性は私の腕を引いて歩き出す。後ろでなにやらまたやりとりが起きているが、さっきまでマスコミの人波にもまれていた私に後ろの様子を見る気力はなかった。引かれるままに歩いていけば、いつの間にか学校内に入っていたようで、少し入ったところで男性は私の手を離して振り返った。


「あんた、マスコミの人じゃないよな。巻き込まれたのか…」
「はい…丁度門の前にいたので」


はは、と苦笑を零して袋の中身がぐしゃぐしゃになっていないかを確認する。中身はどうやら衣服だったようで、少し形がくずれていたけれど問題はなさそうだ。


「門の前にいたってことは此処に何か用があったんだろ。どんな用事だったんだ?」
「ここに通っている弟に荷物を届けにきたんです。緑谷出久って名前の生徒なんですが」
「緑谷?」


弟の名を出せば男性は少しだけ驚いたように瞳を見開いた。


「弟ってことは、あんたはあいつの姉弟か?」
「はい、緑谷ナマエといいます。あの、貴方は…」
「俺は相澤消太だ。緑谷のクラスを受け持っている」
「え、ていうことは担任の先生!?すいません!気づかずに失礼な態度をっ」


慌てて頭を下げれば「別にいいから頭を上げてくれ」と言われ、おそるおそる頭を上げた。それにしてもこの真っ黒な格好の人が先生…雄英は自由が売りの高校ともいうし、先生の格好も自由度が高いんだろうか。私の仕事場もそれなりに服装は緩いが、それ以上かもしれないと、ついまじまじと見てしまう。相澤さんはどこか気だるそうな表情のまま、私を見てゆっくりと手を出した。


「緑谷へ渡す荷物なら俺が預かろう。ホームルームの時に出も渡しておく」
「あ、ありがとうございます」


お願いします、と袋を渡して再度頭を下げる。一応これで母から依頼されたお願いは終わったのでほっと息を吐いた。あとはあのマスコミが殺到している入口からどう帰るかだ。相澤さんの話によれば警察にも連絡してあるので、もうしばらくすれば落ち着くらしい。それまでは此処にいてもいいと許可をもらった。


「とりあえず、これつけてくれ」


手渡されたのは「許可証」と書かれたネームプレート。これ私の会社にもあるなぁと思いながら首からさげる。


「じゃぁ、来客用の部屋に案内する」
「あ、はい!お願いします」


歩き出した背中を追いかけようと慌てて足を踏み出した時、何故か視界がぐらりと揺れる。あれ?と思った時には私の体は傾いてそのまま壁にぶつかってしまった。


「ぐっ…い、つ…」
「おい、大丈夫か!?」


相澤さんの焦った声が聞こえるが、ぶつかった衝撃と痛みで私の口から出たのはうめき声だった。おかしい、別に何かあったわけでもないのに…なんでこんなにも私の視界はぐらついて、気持ちが悪いんだろう。相澤さんの声を聞いて集まってきたらしい複数の足音と心配そうな声。とりあえず大丈夫なことを知らせるために口を開いた。


「すみ…ませ……だい、じょ……」


大丈夫です、そういい切ろうとしたのに私の意識はその途中でぷつりと途絶えた。




出久の姉とA組の担任
180825 執筆


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