複数ジャンル短編 | ナノ
ざまあない、そう笑いながらも言葉のわりに無事とは思えない姿で自分を見る猿門を見ながら双六は考える。手元は特別製の手錠でつながれてしまっているため、壊すことはできない。牢にも鍵がかかっており、外には見回りの人形がいる。どうするべきか、と双六が瞳を細めた時、彼らの耳に金属をこする音が届いた。


「また来たか…」


忌々しそうに零された割には小さな声。それは、人形が大きな声を上げるとそれに反応することを知っているからだろう。大きな音を出せば最後、その武器で首を持っていかれてしまう。本当に面倒なものを持ち込んでくれたもんだと大きく息を吐いた。
カリ、カリリ、と近づいてくる音。それに混じるように音が近づくにつれて、別の音も聞こえてきた。カラコロとまるで車輪が回っているような音。さっき人形が来たときはしなかったその異様な音に、双六と猿門は思わず牢の外へと目を向けた。
最初に見えたのは額に札が張られている人形の姿。続くように武器である鎌が見えたが、その柄に一本のひもが括り付けられていた。それを辿るように視線を更に後ろへと向けると。


「あ、主任、お疲れさまです」


のんきな声と共に姿を現したのは五舎の看守の一人であるミョウジだった。


「おま、何やってんだ!」
「いや、脱獄した囚人と猪里さんに、自分たちにたてつくか、手伝うかどっちか選べって言われて、痛いの嫌なんで手伝いを選んだらここの見回りを頼まれたんですよ」


しかし、歩き回るのが疲れるという事で彼女が思いついたのは、決まったルートを決まったスピードで歩く人形。それに車輪が付いた箱を取り付け、見張りをしながらサボっていたらしい。


「おい猿、お前普段看守にどんな指導してるんだ…」
「こんなこと俺が教えるわけないだろ。こいつが勝手にこういうことを思いつくんだよ」


がくりと項垂れる猿門。そんな俺たちを見つつ次第にミョウジは人形と共に去っていく。


「じゃぁ主任、私仕事に戻りますんで」
「いやそれ仕事じゃねえだろ!さっさと俺たちを助けろ、ミョウジ」
「えー…」


もう姿も見えなくなってしまったが、心底面倒くさそうな声が人形が去っていった方向から飛んでくる。


「助けろって言われても、私牢屋の鍵持ってないですよ?見回り担当ですから」
「鍵がなくてもなんとかできるだろ!」
「いやいや、私の専門は回避ですから鍵あけとかそういう芸当はできないですよ」


返事は返ってくるがその音は段々小さくなっていく。これは諦めるしかないか、とあきらめてため息をついた時だった。


「でもまぁ、鍵は開けられませんが話相手にはなれますよ」


さっきまで遠かった声がいきなり近くで響く。顔を上げればそこには毛布を羽織ったミョウジが俺たちの牢屋の前に立っていた。


「猿門主任は寂しがり屋ですしね」


よっこいせ、と猿門がつながれている牢の前に腰を下ろし、再度体を毛布でくるみどこか楽し気に笑うミョウジ。彼女の後ろでは「俺は寂しがり屋じゃねえ!」と猿が騒いでいるが彼女の耳にそれは届いていないようだ。


「お前、楽しんでるだろ」
「さぁ、どうでしょう?」


くふくふと毛布で口元を隠しながら笑うミョウジ。その反応が問いかけの返答になっているが、本人は言葉で返すつもりはないらしい。でもまぁ、煩い猿と二人だけでこの状況が変わるまで待つよりもいくらかはましかもしれないと、目の前で小さく微笑むミョウジを見ながら考えた。




偏頭痛もち看守と地下牢獄
170220 執筆


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