複数ジャンル短編 | ナノ
結局、お昼休みは田中くんの視線の事が気になってご飯も進まず、彼からおすすめされた昼寝もすることができなかった。午後の授業も全然頭に入ってこないしまつで、何度か先生に「大丈夫か?」と聞かれてしまったほどだ。周りの子達も心配そうに見てくる。それほど私はぼんやりしてしまっているのだろうか。授業の休み時間には白石さんが来て、少し休んできた方がいいと勧めてくれた。


「なんかミョウジさん、ずっとぼーっとしていたから」
「…なら、そうさせてもらおうかな」
「うん、そうした方がいいよ。私、保健室まで送っていくから」
「ありがとう、白石さん」


本当に心配そうに私を見てくる白石さんにお礼を言えば、「気にしないで」と返事が返ってくる。体調は変じゃないか、昨日はしっかり寝たのか、なにか悩み事があったら聞くよ、と優しい言葉をかけてくれる白石さんは本当にいい子だ。これなら男女問わず人気があるのも頷ける。少しの事で他の事に集中できなくなってしまう私とは大違いだ。
隣に並んで歩く白石さんと少しだけ話をしながら、保健室まで歩いていくと丁度中から先生が出てきた。


「あら、どうしたの?」
「あ、先生。実はミョウジさんの体調が悪そうで…」
「そうなの…どうしよう、先生今からちょっと用事で出かけなくちゃいけないのよ。見ていることはできないけれど、体調が良くなるまでベッドで寝てる?」
「そうさせてください」


寝ているだけでも幾分かはマシになるだろう。私の返事に快く頷いてくれた先生は扉を開いて、扉に一番近いベッドに寝るよう言ってくれた。
白石さんは次の授業があるために、教室へと戻ると言って行ってしまった。戻る際「ゆっくりやすんでね」と優しい言葉と笑顔を浮かべて。本当に彼女はいい子だ、としみじみ思いつつ、ふかふかのベッドに横たわる。
私としてはどこも悪いとは思わない。眠気もあまりない。そう思いつつベッドに入ったはずだったのに、ベッドの心地よさを堪能しているうちにいつの間にか私は眠りにおちていた。




▽▲▽




どれくらいの時間眠っていたんだろう。微かに聞こえた扉が開く音。あぁ、きっと先生が帰ってきたんだ、と思いながらも、とろとろとした微睡を貪る。あと少し、もう少しだけ、この心地よさを堪能していたい。まだしっかりと覚醒していない意識でそんなことを考えていると、シャーッと私が寝ているベッドのカーテンが開く音がした。
誰かが様子を見に来たんだろうか。思い当たるのは先生しかしない。目はまだ開けていないので、きっとすぐにいなくなると思っていたが暫く経ってもその人物は私のベッドの横から退こうとはしなかった。
おかしい。先生ならすぐに戻るはずだ。ならこの人物は誰だろう。まず最初に浮かんだのは白石さんだった。優しい白石さんなら、授業が終わった後に様子を見に来たりするだろう。実際に、彼女が何度かそれをしている姿を見たこともある。
けど、白石さんは相手がまだ寝ていた時、こんなにずっとその場にいることがあるのだろうか。彼女なら、相手がまだ寝ていたら気を使ってすぐにいなくなるに違いない。なら、この人物は誰だろう。

そう考えていると自然と意識もしっかりとしてくる。もう考えずに目を開けてしまおう、そう思ったとき、隣にいた人物は何かをベッド脇に置いて部屋を去って行ってしまった。
まだ寝てると思ったのか、入ってきた時と同じように静かにカーテンを閉めて、扉も締めて行ってしまう。
きゅっきゅっ、と廊下を歩く足音がそれなりに遠くなったときに、私はゆっくりと目を開けた。横を見れば、置いてあるのは私の学生鞄。どうやら、さっきの人物はそれを届けに来てくれたらしい。
身体を起してカーテンを引けば誰もいない保健室。どうやら先生はまだ帰ってきていなかったらしい。時計を確認すれば下校時間を少し過ぎた時間を示していた。このままずっと残っていると昇降口が閉められてしまう。
慌てて上履きを履いて鞄を持ち、保健室を出た。もし先生が戻ってきたとき用に、メモ用紙に体調が治った事と下校することを書いて。


「結局、誰が鞄持ってきてくれたんだろう」


通学路を歩きながら通学鞄の届主の事が誰か考えていたが、明日学校に行って聞けばわかるだろうと思い直し、私は少しだけ足早に自宅へと戻ったのだった。




後ろの席の田中くん3
160529 執筆


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