複数ジャンル短編 | ナノ
私のクラスには人一倍だらけることに力をいれる生徒がいる。彼の名前は田中くん。下の名前もあるけれど、私はいつも彼の事を田中くんと呼んでいる。
田中くんの隣にはいつも背が高くて気の回る太田くんがいる。彼らはいつも大抵セットでいて、よく私は校庭端の木で寝てしまった田中くんを俵のように持ち上げて歩く太田くんを見ている。体格は田中くんの方がほっそりとしているけれど、それを軽々と持ち上げて運んでくる太田くんはとても力持ちだ。


「おはよう」
「おはよー、太田。今日もご苦労様」
「ほんとお前すごいよな、俺ならそんな軽々と持てないよ」
「そうか?意外とやってみたら出来るかもしれないぞ?田中はそこまで重くないからな」
「いや、遠慮しておく」


いつものように田中くんと担いで教室に入ってきた太田くん。彼の友達の男子がそんな彼に近寄って声をかけていく中、田中くんは何を言うわけでもなくただ大人しく担がれている。私はいつもそんな光景を彼の前の席で見ている。
私の席は田中くんの前。太田くんの左斜め前にある。彼らと何か接点があるというわけでもなく、ただ前の席替えで偶然にもこの席になった。


「あ、ミョウジさん、おはよう」
「おはよう、田中くん」
「おはよう、ミョウジ」
「おはよう、太田くん」


太田くんから降ろされた田中くんは、自分の席について丁度彼らを見るために後ろを見ていた私を見る。交わすのは普通のあいさつで、これは彼と偶然目があったときとか、そう言う時にするのだ。


「田中くん、今日も眠そうだね」
「そう?」
「うん、目が眠そう」
「まぁ、間違いではないかも」


今日はいつもよりいい温かさだし、と呟きながら慣れた動作で腕を組んで机に顔を伏せる田中くん。


「こら、田中。もうすぐHRだぞ。寝るのはそれが終わってからにしろ」
「いや、普通はその後も起きてなくちゃダメだろ」


太田くんの言葉に、隣で様子を見ていた志村くんが即座に指摘をいれた。
話しの中心である田中くんはもう半分以上夢の中だ。ゆるゆると瞳を閉じていく彼の耳には周りの声はもうほとんど聞こえていないんだろう。
私はそんな彼の姿を太田くん達の声をBGMにみる。あまり見過ぎると彼の眠りの邪魔になってしまうから、あまり見ることはできないけれど、ほんと彼はいつも気持ちがよさそうに眠りの世界へと入っていくのだ。
それを見ていると、ダメだと分かっていても私も眠りたくなってしまう。不意に零れ落ちた欠伸を手で隠していると、くいっと制服の袖を引かれた。
その手の持ち主はうとうとしていた田中くん。少しだけ腕から顔を上げて、片手で私の制服の袖を引っ張っていた。見過ぎていたから迷惑に思われてしまったのだろうか。いつもは、挨拶と少しの会話をしたら私は前を向いてしまうから。それならば、悪いことをしてしまったと、謝罪の言葉をつむごうとした時だった。


「ミョウジさんも眠いなら寝たら?」
「え?」
「今日、すごくいい昼寝日和だから、おすすめ」


日当たりとか温かさとか最高だよ、とあまり感情の出ていない声で告げられる提案。黒く、どこかぼんやりとした瞳には少し驚き顔の私が映っている。当たり前だ、ここの席になって彼からこうやって話をもちかけられることがなかったのだから。


「んー…そうだね、できそうだったらそうしてみるよ」
「うん」


私の返事に満足したのか、また机に顔を伏せてしまう田中くん。本当にそれだけが言いたかったのだろう。少ししてから彼の背中が一定のリズムで動きだし、微かに寝息が聞こえてきた。
これ以上見ていては彼も寝ずらいと思い、私も体を前へと向ける。ふと視線を左側の窓に向けた。確かに、外は快晴で少し開いた窓からは心地よい風が入ってきている。机におちる日差しはとても温かく、彼の言うとおり昼寝日和だ。今は流石にできないけれど、お昼休みにでも田中くんの真似をして、私も寝てみようかな、なんて空を飛ぶ鳥を見ながら考えた。




後ろの席の田中くん1
160529 執筆


top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -