捧げ物 | ナノ
 盤面での呼び名は6面。記憶で言えば池田屋の記憶、舞台は京都の市中。そこが解放されたと政府から連絡があって暫く過ぎた。市中はいつも暗く。すべての場所で夜戦を行う必要がある。そして、街中で戦うということもあり、大きな刀は入れられず自然と短刀や脇差を中心とした部隊編成となる。そこで発生した問題が練度の問題。私が受け持つ本丸では、ほとんどの時代を駆け抜けていたのが太刀や大太刀だったのもあり、脇差などの練度がお世辞にも高いとは言えない状態だった。その状況でその時代へと繰り出せばどうなるか。勿論、強くなって待ち構えている敵に返り討ちにされる。
 演練を行ったり他の時代に出陣したりして練度を上げているが早々早く他の強い刀たちに追いつくわけもなく。
 だから、私はまだ彼らを京都へと出陣させていない。出陣の許可を出すのは、短刀や脇差の子達がそれなりに敵に対応できる強さに育った時だ。けれども、やはり周りからの報告を聞くと自然と零れるため息は最近回数が増え、どうしたもんかと誰に言うわけでもなく零してみたりもする。
 今まで大太刀や太刀など比較的攻撃力が高く、頑丈な刀で突破できていたため、まさかここで短刀達がカギとなる時代がくるとは思わなかった。


「色々と考える必要があるかな…」


 ふぅ、と息をはいて止めていた足を動かしたその時だった、廊下からパタパタと足音が聞こえてきたのは。


「主―!」


 よく響く元気のいい声。あぁ、また来たのかと自然と顔には苦笑が浮かぶ。新しい時代にいけるようになり、多数上がってきた報告の中で得た新たな刀剣の情報。それを聞いてから、彼らはずっとこの調子だ。廊下の奥から私を見つけたらしい彼らの一人、愛染国俊はぱっと顔を明るくさせて走り寄ってくる。


「待ってよ国俊!」


 そんな彼に続く様に走ってきたのは近侍の蛍丸。大きな刀を背負っているにも関わらず、なんで国俊に負けない速さで走れるのかは未だに謎だ。
 国俊は一足早く私の元にたどり着くとうずうずとした様子を隠さずに此方を見つめてくる。


「なぁ、今日はどこに行くんだ?京都か?」
「あ、ずるい、国俊。主、京都に行くなら俺も連れていって」
「ダメだって。お前は大太刀だろ?あそこに適してるのは俺等短刀なんだよ」
「でも俺だって早く国行を迎えに行きたい」


 私を挟んであーだこーだ言い合う来派の二刀。国俊は私の前に、蛍丸は私の後ろに回ってお互いの意見を主張し合っているが、根本は二人とも一緒だというのはよく分かった。
新しい時代で発見された新しい刀。それは、来派の刀である明石国行。それを聞いてから二人の瞳は変わって、何かと出陣があれば場所はどこだと聞いてくるようになった。


「それで、今日はどこに行くんだ?主」
「残念だけど京都はまだ暫く出陣予定はないよ」
「えー」


 不満げに頬を膨らませる国俊。なんとかなだめようと頭を撫でてみるがその効果はいま一つのようだ。


「ごめんね、まだ全体の強さが京都に行けるところまで高まってないから…また今度ね」
「今度って…前もそう言って返事濁しただろ?主はいつもまた今度また今度ってそればっか」
「ねぇ、主。俺も京都行きたい」


 前で拗ねる国俊をどう対処したもんかと考えていれば後ろから袖引っ張られる。後ろにいるのは勿論蛍丸で、俺も、俺もと裾を引っ張る姿は可愛らしいがそれでもその要望にいい答えを出すことはできなかった。


「ごめんね、それは許可できない。蛍丸達大太刀組だとその時代は厳しいらしから…」


 毎度のように返している返事をすれば、蛍丸は不満げに此方を見つめてきた。その返答以外の返事を聞きたいと言わんばかりの目だが、私にはこれ以外の返事を返すことはできない。
 もし下手に蛍丸達をいかせて折れてしまったりしたら一大事だからだ。それに、出来ることなら彼らにはあまり怪我をしてほしくないという気持ちもある。


「じゃぁさ、俺等が折れる心配がないくらいに強くなれば京都に行かせてくれるのか?」
「あー…まぁ、そうだね」


 ぐいぐいと腕を引っ張られながら聞いてくる国俊にもごもごと返せば、彼はぱっと表情を明るくして蛍丸へと近づく。そして、蛍丸の肩を組み自信満々な顔で私を見た。


「じゃぁ俺、今日から蛍丸と同じ部隊に入る!」
「え?!」


 突然の宣言に思わず声が裏返った。分からぬ間に肩を組まれてそんな宣言を聞いた蛍丸もおんなじように目を丸くして国俊を見ている。しかし、その本人は気にした風もなく笑っていた。


「蛍丸と同じ部隊でこいつと一緒に強くなる!それで、主が安心するくらい強くなって二人で京都に国行を迎えに行く!」


 それなら文句ないだろ?と聞かれればもう返す言葉はない。それほどまでに彼らにとっては明石は大きな存在なのだと改めて知った。
 蛍丸も国俊がどういう意味で言ったのか理解したらしく、驚いた表情が徐々に嬉しげな表情へと代わっていった。これではもう止めようもない。諦め半分、ちょっとその光景が可愛い半分のため息をつき、小さく了承の言葉を紡いだ。


「それじゃ、これから蛍丸と国俊は第一部隊でばりばり働いてもらおうかな」
「うん!」
「任せとけ!」


 元気な返事を返しながら二人はお互いの顔を見て嬉しそうに笑う。その光景に私の口元も自然と緩んでいた。

 
 その後、来派の二人が入った第一部隊が急激に強さを増していき、二人が満面の笑みを浮かべて明石を引きずってくるのはまた別の御話。




来派の話


150725 執筆

元ネタ:まゆげ様からツイッターにあげられたイラスト
まゆげ様へ捧げます。

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