スイセンの末路 | ナノ
「俺を、愛しにきた?」
「えぇ、貴方を愛しにきたの。そして、これからも一番愛し続けると約束するわ」


耳元で小さく囁きながら着物の隙間に手を差し入れる。手から伝わる引き締まった肉体。それを味わう様に撫でれば、三日月の体は小さく震える。それだけでも私の気分はこれ以上ないほどに高揚する。決して消えることがない青い色に浮かぶ金色の三日月を見つめ、その唇に自分の唇を重ねようと顔を近づけた、その時だった。私の下から見上げる三日月が、私がその言葉を聞いた瞬間どこか楽しげに細められたのは。


「おぬし、その約束…前にも他の誰かと交わしただろう」
「…!…そんなこと」


一瞬頭をよぎるのは自分の初期刀。しかし、あれはただの口約束だ。別にしっかりと約束したわけではない。
思わず体を離せば、にんまり、と目の前の三日月は口角を上げて笑う。


「知っているか?神と名のつく者と交わした約束は、たとえ口約束だとしてもしっかりと効力を発揮する」
「なに言って…っ」


突如体にかかる謎の衝撃。ずしん、と体が重くなり、さっきまで高ぶっていた思考が徐々に冷え切っていく。
何が起こっているのかわからず、説明を求めようと目の前の三日月を見ても彼はただ楽しげに笑うばかりで、私の身に起きている現象について説明する気はないようだ。


「…ぁ、ぐっ…」


じわりじわりと引いていく血の気と意識、それと入れ替わるように来たのは激しい痛みと熱だった。これはなんだ、私の身になにが起きている。わからない、必死に頭を動かしても霧がかかったように上手く思考が回らない。
くらくらする意識を必死にかき集めて、ふと、激痛が生まれている場所へと私は視線を向けた。そこは、私の左胸。丁度、心臓がある部分。そこから何故か、赤色に染まった刀身が見えた。


「か、たな…」


そう、刀。刀の刀身だ。けど、なんでそんなものが私の胸から生えているんだろう。わからない。わからない。ただ、どうしてという疑問だけが頭の中をぐるぐるとまわる。


「ダメだよ」


不意に聞こえてきたのは私の声でも、三日月宗近の声でもない第三者の声だった。それがとても近くで響く。そしてゆっくりと背後から私を抱きしめるように回されてくるのは細い二本の腕。その腕が身に着ける衣服はとても見覚えがあるものだった。
黒を基準として赤い色が入った服。血の様に赤い色が塗られた爪。細い指先は私の体の輪郭をなぞるように滑り、はだけた着物の隙間から滑り込んだ。まるで味わうように手は肌を撫で、次いで私の体を貫いている刀を撫でる。


「ダメだよ、主は、俺と先に約束してるんだから」


再度念を押すように言葉を紡ぎ、「そうでしょ?主」と耳に吹き込むようにして聞こえてきたのは間違えようもない、私の近侍である加州清光の声だった。


「俺の主は、誰にも渡さない」
「きよ、みつ…」


段々と遠ざかっていく意識の中で名を呼ぶと、それに合わせるようにごぽり、と口元から赤い液体が溢れる。必死に紡ぎ出した言葉はとてもか細い声で、その言葉を最後に私の意識は途絶えた。


160312 執筆


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