スイセンの末路 | ナノ
小さく息を吐き出して、私はゆっくりと体を起こす。外へと目を向ければまだ暗く、時計へと目を向ければ2時を回ったくらいだった。体感としてはそれなりの時間が過ぎた様にも思っていたが、それほど時間はたっていなかったらしい。
ほとんど裸同然の自分の体を見ながら、ゆっくりと自分のものではない熱さを咥えるそこへと手を伸ばす。まだしっかりと熱を飲み込んでいるそこは、私や私の下で息を整えている青年――一期一振の動きに合わせて擦れ、ちゅぷっと淫らな音を立てた。

他人の刀を奪う方法は大きく分けて2つ。手などの肌から力を注ぎ時間をかけてゆっくりと浸食する方法。そして、口や体を重ねて一気に力を注ぎ浸食する方法。前者は時間がかかるが、体力などの消耗が少ない。後者は、一気に力を流し込むので体力の消耗が激しい。それが、2つを試した私自身が実感したことだ。
体の事や力の消耗などを考えれば前者で行っていくのがいいのだろう。でも、私はそんなに時間をかけるつもりはない。そもそも、研修ということでここにきている為、元から時間のタイムリミットが存在している。そんな悠長に構えていることはできないのだ。

顔にかかる髪を軽く払っていると、手袋をはめていない細くしなやかな手が伸びてきて私の頬を撫でる。体を起こした私を追うように上半身を起こした一期一振は、まるで恋人を愛でるような優しい眼差しで私の頬を撫で続ける。甘えるようにその手にすり寄れば、たくましい腕に引き寄せられて抱き締められた。


「どうしたの?一期一振」
「いえ…ただ、貴方の体温がとても心地よいので」
「そう?」
「はい」


返事と共に少しだけ強められた力に応えるように背中に手を回せば、すりっと私の首筋にすり寄ってくる。


「できれば、ずっとこうしていたいくらいです」
「私にばかりくっついていたら、貴方の主に怒られちゃうわよ?」
「構いません。あの人よりも、貴方の方が私の主に相応しい」


その言葉に自然と口角が上がり笑みが零れる。今まで、あの女性の事を「主」「主」と言っていた刀達が、一度体を重ねて力を流しただけで、こうもコロリと行くのだ。なんて素敵な方法なんだろう。これを教えてくれた彼女には…自分の部屋で泣いている彼女には、再度感謝をしなければいけない。


「私が、貴方の主になってもいいの?」
「私は、貴方がいいです」


顔を上げて、真正面から見つめてくる瞳に迷いはない。ただただ純粋に私を求めてくるその瞳には、どこか嬉しげな表情を浮かべる私が映っている。


「嬉しい、ありがとう」


そっと顔を近づければ、それだけで何をしたいのかもう分かっている彼はゆっくりと瞳を閉じる。そっと重なった唇。最初は触れ合うだけだった口付は、次第に深く、お互いの舌を絡めあって、唾液を交換するほどの口付に変わっていく。貪るように何度も口付を交わしながら、私は最後の一押しとばかりに目の前の刀に、自分の力を流し込んだ。




▽▲▽




「あと一振り」


一期一振がいる部屋を後にして縁側を歩きながら零れた言葉はそんな言葉だった。先ほどまで暗かった空は明るくなり始め、鳥のさえずりが微かに聞こえてくる。まだほとんどの刀は寝ているらしく、本丸はとても静かだ。
ここ数日で覚えてしまった刀の部屋と、そこへの行き方。間違っていなければ、この道はまだ力を注いでいない刀への道。天下五剣が一本、三日月宗近がいる道だ。
昨夜の行為で乱れてしまった服を整え、髪を結いなおす。またこれから乱れてしまうだろうけれど、だからと言って手を抜くつもりは私にはない。


「ここね」


たどり着いたのは一つの部屋。静かに中に入れば、そこには一式の布団があり、それは人の形に膨らんでいた。ゆっくりと上下するそのふくらみと、聞こえてくる寝息からしてまだ寝ているらしい。
これは好都合だと布団に潜りこみ、その体に覆いかぶさるようにして見下ろす。いつも身に着けている装飾品は今はない。それでも、その美しさは変わらない。本当に素敵な刀だと、ほう、と息が零れる。この刀を私は今から手に入れることができる。あぁ、なんてすばらしい。湧き上がる高揚感にふるりと体を震わせながら着物へと手を伸ばせば、小さく唸って彼の瞳が開く。
今まで隠れていた三日月が私を捉えて僅かに細まり、閉じられていた唇が緩やかに開かれた。


「見習い審神者ではないか、こんな朝からどうした?」
「おはよう、三日月宗近。貴方を愛しに来たわ」


160610 執筆


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