スイセンの末路 | ナノ
時の政府という人たちについていってから少し経った。審神者になるための基礎を身に着けるため、政府の施設で勉強する事数週間。元々頭はそんなに悪いわけでもなく、容量も悪くないため、私は審神者としての基礎をスポンジが水を吸う様に吸収していった。
政府の人が言うには、他の審神者よりも多少霊力も強いらしく、将来は優秀な審神者になるに違いないと褒められること数回。
私は見習いという称号を得るための試験を受けることとなった。試験内容は刀の付喪神の顕現。
それは、審神者になるには必要不可欠な技術。これができないものは審神者として本丸を持つことを許されない。つまり、私の夢見る理想が実現できない。そんなのはまっぴらごめんだ。


「お好きな刀を選んでください」


一つの長机に並べられた5本の刀。初期刀といわれ、初心者でも扱いやすい刀がこの5本らしい。どの刀の長さも一緒で、打刀だという事がわかった。刀の種類が分かったところで次は選別だ。どれが一番私に相応しい刀か。じっと並べられた刀を見つめて思考を巡らせる。ふと、視線に止まったのは黒い柄に赤い鞘。その血のようにも見える赤色に私の視線は奪われ、自然とその刀に手を伸ばしていた。


「この刀にします」


そっと撫でるように柄に触れると同時に光るのは刀。細長いシルエットが段々と人の形を成していき、ひらりと視界に桜の花びらが見えたと思えば目の前に一人の青年が立っていた。打刀の加州清光だ。


「あんたが俺の主?」


聞きやすい低音の声。黒を基準とし赤色が入っている服。鴉の濡れ羽のような黒髪が揺れ、血の様に赤い瞳が私を映す。ほう、と無意識に私の口からは息が零れた。

目の前の青年は、今まで見て傍に置いてきたどんな男性よりも美しく、気品溢れていた。それは元が刀というものあるだろうが、きっと“神”という人間の上を行く存在だということも関係しているのだろう。初期刀でこれなのだ、その上を行く太刀や珍しい刀はもっともっと綺麗で美しいに違いない。それを、私は傍に置き、自分のものと出来るのだ。

お腹の底から湧いてくるぞくぞくとした感触。自然と上がってゆく口角を隠さずに、私は目の前の刀を見つめた。


「えぇ、そうよ」
「ふーん」


まるで品定めするように動く彼の視線は私の全身を見てゆく。私の服装は霊力を高めるために必要だからと着せられた巫女服だ。二度程全身を見た加州清光は、うん、と小さく頷いた。


「いいんじゃない。どこもかしこも手入れが行き届いてるし」
「ありがとう」


綺麗に身なりを整えるというのは私にとって息をするのと同じような事だ。どんな場所、どんな時でも、自分が最も綺麗だと思われるように努力と注意は怠ってこなかった。
小さく微笑めば、目の前の加州清光もやんわりと瞳を細める。そんな私たちに近づいてきたのは、この審査を務めていた政府の人間だった。


「見習い審神者に昇格おめでとうございます。早速ですが、貴方には後日他の審神者が管理をしている本丸に赴き、見習い審神者として数日過ごし、審神者としての技術を学んでいただきます」
「わかりました」


詳細はまた後程、と言い残し政府の人は去ってゆく。今日はもうこれで終わりなのだろう。そう思うとずしん、とした疲れが体にのしかかってくる。予想以上に緊張していたらしい。
自然に私の隣へと立つ加州清光の「大丈夫?」という問いに小さく頷いて返事を返し、爪が瞳と同じ赤色に彩られた手を握る。一瞬彼の手がびくりと震えたが振り払われることはなかった。まずは、一本だ。


「部屋、行きましょうか」
「うん」


そっと手を引いて歩きだせば、彼のヒールの音も後からついてくる。


「ねぇ、主」
「なぁに?」


あ、と思い出したかのようにかけられた声に返事を返せば、ぐんと手を引かれて私の歩みが止まる。どうしたのだろうと後ろを振り返れば、此方をまっすぐに見つめる加州清光の姿があった。


「ちゃんと、俺を可愛く着飾って……そして、一番愛してね」


ぎゅっと繋がれた手に力が入る。それはまるで逃がさないという彼の意思表示の様にとれた。


「勿論、そのつもりよ」


にこりと笑えば彼も笑う。


「約束だよ?主」
「えぇ、約束」


返すように手を握り返せば、加州清光の笑みは一層深くなった。


151220 執筆


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