私に審神者の才があると告げられたのは突然の事だった。いつのもように通っていた学校から返ってくると、見慣れぬ黒い車が止まっているのを見た。新しいお客様だろうかと首をひねって家に入れば、黒いスーツに身を包んだ複数の男性の姿が視界に入る。何やら両親と話をしているらしいが声は此処まで届かなかった。
「ただいまかえりました」
会話の邪魔をしない程度の声でそう告げれば、両親とスーツの人たちの視線が私へと集まる。そして、つかつかとスーツの人が近づいてきたかと思えば告げられたのが上記の内容だった。
――貴方には霊力がある。貴方に是非審神者になってもらいたい。
急な事で回らない頭を捻れば、ぐっと私の体は横からの力に引き寄せられた。
「偉い方々の指示でも、うちの子をそんなところにほいほい差し出せません」
「申し訳ないですが、お引き取り下さい」
上から聞こえた凛とした声は父と母の声だった。半分睨みつけるようにスーツの人たちを見る両親は、離さない様にしっかりと私の体を抱きしめている。あぁ、幸せだ。私は本当に両親に愛されている。そう実感できる確かな温もり。
「ですが、審神者の素質を持つ方は滅多にいないのです」
「あなた方も、ニュースを見ているなら刀剣男士や歴史修正主義者の事は御存じでしょう?」
「娘さんは私たちの世界を救う力を持っているんです。だからどうかお願いします」
世界、救う力、あまりにも広すぎる言葉にいまいち実感が持てないと思ったが、ある言葉に私はぴくりと反応した。
刀剣男士。彼らは確かにそう言った。その言葉は知っている。学校の人たちがたびたび話題にしたり、ニュースで出てくる言葉。
刀剣の付喪神で、とてもカッコいいイケメン。力も強く、その力で改変されている歴史を修正する戦いに赴いている。
そこまで思い出して、同時に審神者とはなんだったかも思い出す。その刀剣男士を従えて、歴史の改変を企む勢力と戦う人間のことだ。彼等は現世とはちがった場所に住み、刀剣男士と同じ屋根の下で暮らし、戦いに身を投じている。
危険も伴うが、それ以上に刀剣“男”士とついている以上、いるのは男のみ。様々なイケメンに囲まれながらの生活を、審神者という彼らは送っている。
尚も交渉を続けようとする政府の人と拒否する姿勢を崩さない両親。そこに挟まれながら、私はただただ考える。審神者となった私の生活風景を。朝も昼も夜も。様々なイケメンに囲まれて、まるで紅一点のように生活する自分を。
主人と刀、主従とも呼べる関係を結び、彼らに指示をだして自分の欲求を吐きだしていく自分を。
それは、なんて…なんて素敵なことなんだろう。両親と共に広い家で裕福な暮らしを続けることも確かに幸せで素敵な事だ。けれど、それ以上に審神者として過ごす生活が私には魅力的に見えた。
気が付けば、私の口からは「審神者になります」という言葉が零れ落ちていた。驚いて悲鳴のような声を上げる両親に、考え直せ、と言われるが私の決意は崩れることはない。
「大丈夫だよ。心配しないで」
安心させようと微笑めば、ぎゅっと強く抱きしめられる。お前は本当にいい子だ、そんな言葉と一緒に撫でられる感触に瞳を緩める。
私は幸せ者だ。両親にこんなにも大切にされて。けど、それ以上の幸せが審神者になる私には待っている。そう考えると、自然と私の口元は弧を描いていた。
151122 執筆
160312 編集
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