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銀魂 幼少期の伊東鴨太郎に会いに行く話2

あれからちょくちょくと彼女は僕の前に姿を現すようになった。それは必ず僕が他の寺子屋の子供から暴力を受けた後だ。
最初は手ぶらで現れ、軽く町のことや寺子屋のことを話した後にふらりといなくなった彼女だったけれど、その次からその手には手当用の道具が入った袋がぶら下がるようになった。


「また今日も派手にやられたね。ま、子供の時にはしゃぐのは必要なことだからいいとは思うけれど、やりすぎはよくないよ」


別にやりたくてやっているわけではない。反論しようと口を開くも、飛び出た言葉は「痛っ」という言葉だった。傷口に塗った消毒液の痛み。いつもならば我慢できるはずなのに、なぜか不思議と彼女の前では言葉がこぼれてしまう。


「こんなんで痛がっていたらダメだって。男だろう?」


殴られて赤くなった頬に、そっと湿布を貼りながら彼女は微笑む。上から優しくなでられる感触。それが痛みを吸い取っていったかのように不思議と体の痛みは和らいでいた。
全ての手当てを終えた彼女は手際よく道具を片付けていく。どうやったらそんなにきれいにはいるのだと思うくらいに、散らばっていた道具は瞬く間に彼女の持っている袋へと収納されていった。
そして彼女はいつものように近くに腰を下ろして隣を叩く。それは、隣に座って会話をしようといういつもの合図だ。
いつの間にか、彼女に手当を受けること、彼女の隣に座ること、彼女といろんな話をすることが、僕の日常の一部となっていた。


「理由、聞かないの?」
「ん?」
「僕がこうなっている理由。全然聞いてこないから…」


ふと、気になっていたことを口にだす。予想していなかった疑問だったらしく、彼女はぱちぱちと数度瞬きを繰り返し、そして小さく口で弧を描いた。


「私からは聞かないよ」
「どうして?」
「そういう話って他人から根掘り葉掘り聞かれたくないでしょ?だから、鴨太郎から話してくれるまで、私は待っているよ」


そう言って彼女は僕の頭を撫でる。その手はとても優しい。待っている、そんなことを言ってもらえたのは初めてのことだった。だからかもしれない、僕の口からは自然と僕の事についての話が溢れ出ていた。

他人よりも努力して努力して、寺子屋で一番を取ったこと、剣術で誰よりも強くなったこと、推薦の話をもらったこと。けれど、周りはそんな自分を理解してくれず、妬みの感情を向けてきたこと。
彼女は静かに聞いてくれた。何も口を挟まずに、静かに、そして真剣に僕の話に耳を傾けてくれた。己の母でさえも耳を傾けてくれなかった己の話を、隣で静かに聞いてくれた。

自然と、僕の瞳からは一滴の涙が零れていた。言葉を紡ぐごとに、話を進めるごとに、ふたをしていた気持ちがストッパーが外れた蛇口の水のように溢れ出て、いつしか僕はぼろぼろと涙を流していた。
止めようと思っても止まらない。こんな時、どうすれば止まるのか。僕はその術を知らなかった。


「鴨太郎」


今まで口を開かなかった彼女の口が小さく開いた。そして柔らかな感触が体を包み込むのを感じる。間近で香る優しい香り。どこか甘く、どこか安心する香り。気が付けば、僕は彼女の腕の中にいて、優しく抱きしめられていた。


「大丈夫、それは止めなくてもいい涙だよ。鴨太郎の中にたまったものを流すのに必要な涙だ。だからうんと泣いていい。大丈夫、誰も見ていないから」


安心して、心のままに、泣けばいい。

今までで聞いたことがないほどに慈愛に満ちた声色にせきを切ったように涙が後から後からあふれ出す。目の前にいる存在にすがるように必死に抱き着いて、僕はわんわんと声を上げて泣いた。


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