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銀魂 幼少期の伊東鴨太郎に会いに行く話1

土だらけになった袴を払い、落ちてしまった眼鏡を拾う。これが始まってどれくらいが過ぎたのだろう。誰もかれも自分よりも劣っているように見え、自分よりもバカにしかみえない。
結局誰も僕と同じ土俵に立てないのだ。それを妬んで事あるごとに掴みかかってくるのだ。
幼い思考に必死に自分を奮い立たせる言葉を並べていく。
誰も自分を理解できない。誰も自分と同じ目線にくることはない。誰も自分と同じくらいの努力をする者はいない。そんな風に必死に自分を奮い立たせて、孤独で押しつぶされそうな心を保つ。


「あーあ、派手にやられたね、少年」


落ちてしまった教科書に手を伸ばした時だった。その本が自分以外の人間によって持ち上げられる。つられるようにしてあげた視線の先には変わった着物の着方をした女性が立っていた。


「どうした?喧嘩でもしたのかい?それとも苛められたのかい?最近のいじめってのは一人を複数人で叩くからね、意地が悪いったらありゃしない」


世も末だよね、なんて言葉をこぼしながら教科書についた土を払い、それを自分の前へと差し出してくる。


「別に…僕が彼らよりも頭脳で勝っていることには違いないんだ。彼らはそれをひがんでいるだけ、どうってことない」
「おぉ、幼い割にはマセてるんだね、少年」


私以上にいい頭をしてるよ、とぽんぽんと頭を優しくなでられる。思えば、こんな風に人と話をして、触れられたのはいつ以来だろうか。母にも父にも向き合ってもらえずに、ずっと一人で過ごしていた自分にとって、頭に乗るその暖かさは未知の感触のようにすら思えた。


「そういう貴方は誰なんですか?見たところここら辺では見ない格好だけれど」
「なに、そこらの奴らとなんら変わらない気まぐれにいろんなところをふらつく放浪者だよ。ここにはちょっと用があってね」


にこりと細められた瞳から裏の感情を読み取ることはできなかった。しかし、と言いながら女性は近くの柱に寄りかかる。


「その用事ってのが少し待ち時間があってね。何かその暇つぶしでも、と思ってふらついていたところ、君の姿を見つけたんだ」


見つけたのは本当に少し前で、彼らに暴力を振るわれている場面は見ていなかったらしい。最近の子は陰湿だねぇ、と女性はどこか困った笑いをこぼしているところを見ると、自分が何をされていたのかは知っているらしい。それでも、あえてそこには深く触れず、女性は自分を隣に誘導するように手招きする。


「なぁ、少年。よければこの暇を持て余す哀れな女の話し相手になっちゃくれないかい?少しの間でいいからさ」


頼むよ、と言われて断る理由もない。そもそも家に帰ったところで自分の居場所などないに等しいのだ。無言で隣に行って地面に腰を下ろせば、女性は嬉しそうに隣に腰を下ろした。君は本当に優しい子だね、とふにゃりと笑いながらまた頭を撫でられる。
不思議な女性だと思った。こんな自分に話しかけてきて、ましてや話し相手をお願いする。そして、こんな自分の頭を撫でる。しかし、それが嫌ではない。
今まで人と接することを避けてきた自分にとって、こんなにものんびりマイペースで己の領域に入り込み、腰を落ち着けてきた人間は初めてだったからかもしれない。


「じゃぁ少年、まずは何の話をしようか」
「それよりも先に、あなたの名前を教えてください。知らないと呼びずらいので」
「あ、それもそうだね。じゃぁまずは自己紹介からしようか。私の名前は――…」


楽しげに言葉を弾ませながら、またその女性は微笑みを浮かべた。いつの間にか、自分の口元もわずかに弧を描いていた。


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アニメ銀魂の新撰組動乱編を見てカッとなって書きました
伊藤先生を幸せにし隊


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