ネタ吐出し場 | ナノ


化物 化物ノ子

「大丈夫だよ」


湧き上がる歓声の中、一人立つ九太の背を優しくなでる。「大丈夫」その言葉はここに来た彼にずっと私が言っていた言葉だ。
一人で生きると決めて、小さな足で必死に立っていた彼の背中を撫でながら言っていた言葉。初めは小く感じた背中も、今ではしっかりとした筋肉がつき、逞しく成長した。一緒に住むことはしなかったけれど、それでもずっと彼の成長を熊徹と共に見てきたのだ。
少年から青年へと成長し、凛々しくなった瞳が私を見つめる。その瞳はまだちょっとだけ迷いの色を移していた。そんな彼に私は微笑みかける。


「大丈夫、行っておいで、九太」


呼ぶのは、熊徹が彼につけた名前。ゆっくりと、彼の背中を押してやる。一歩、その力で揺れ足を踏み出した体は止まることはなかった。
観衆の中へと消えてゆく背中を見ながら、私は熊徹へと視線を向ける。


「ほんと、九太がいないと半人前なんだから…」


情けないほど一方的に押される姿を見たのは何度目だろう。でもきっと、それはこの後すぐにかかるであろう叱咤の声で変わるはずだ。彼に唯一最後までかじりついてきた、一番弟子によって。


「頑張れ、熊徹」


小さくつぶやいた言葉は、周りの歓声の中へと静かに消えていった。


□ ■ □ ■


「バケモノの子」上映開始日に見てきました。熊徹はかっこいい、そして九太はかわいい。最後の方は宮野真守さんとクジラに全て持って行かれた気がします。
成長してゆく九太の背中をそっと押していく立ち位置にいる夢主を書いてみたかった。


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