ネタ吐出し場 | ナノ



鬼太郎(6期) 厄運を拾った人間

まるで誰かが泣いているようにしとしとと雨が降る。雨傘をさして歩くのは森の中。ねずみ男の見張りを頼まれて一緒に来たことはよかったが、肝心の本人が目を盗んで消えてしまったものだから私は今灰色の姿を探して森の中を歩いていた。


「見つけたら毛皮ひんむいて野良犬のエサにでもしてやる」


イラつきをぶつけるように近場の石を蹴った時、ちりん、と鈴の音が聞こえた。見ればそこにいたのは一匹の猫。私に気が付いたのか、その大きな瞳で此方を見つめていた。しかしその猫、よくよく見れば肩からもやのように妖気が漏れ出ている。


「怪我してるの?」
「……。」


返事は返ってこない。猫あらため一匹の妖怪はそのまま私の横を通りすぎようと歩みを再開した。このまま道を譲っていかせてもよかっただろうが、怪我をしているものをそのまま通すなんてことは私にはできなかった。
小さな体の前に立ちふさがれば、妖怪は再度私を見上げる。


「どけ、人間」
「申し訳ないけど、それは聞けない。貴方、怪我してるから」


このまま見送ってそのあと死なれてしまったら目覚めも悪い。手当てしようと手を伸ばすと、妖怪は毛を逆立たせて威嚇してきた。


「そこをどけ!」
「手当てをさせてくれたらどくよ」


一度ひっこめた手を再度伸ばすと、ぶわっと大きな風が吹く。一瞬瞑ってしまった目を開けばそこには毛を逆立たせ、牙をむく大きな獣がいた。


「俺に触れたらお前は死ぬぞ!俺は人間の生気を吸うんだ。傷が治るくらいまで吸われたらお前はミイラみたいに干からびて死ぬ!」
「生気…あぁ、貴方がすねこすりなんだね」


今回鬼太郎たちが追っていた妖怪だ。この怪我がどんな経緯でついたかわからないけれど、周りに鬼太郎たちの気配がないという事は依頼の件は達成したらしい。それでもこの妖怪がいるということは彼はすねこすりを見逃したんだろう。
目の前で尚も威嚇し続けるすねこすりを見上げ、どうするかと考える。すねこすりの言葉をまともに受けるなら、あの怪我は生気を吸えば治るもの。けれど、すねこすりは私を死なせたくないからこうも脅して離そうとしている。きっと意図せずに人を死へと導いてしまったことがあるんだろう。わかっている妖怪ならこんなことは言わないはずだ。
一歩、足を踏み出せば私を睨む瞳に迷いの色が浮かんだ。
もう一歩、さらに近づけば軽くすねこすりの足が下がる。
さらにもう一歩近づいて手を伸ばすと、雨と戦いで汚れてしまった体毛に届いた。


「お前、なにしてっ」
「私は死なないよ。あなたに生気を吸われても」


だから怯えなくていい、心配しなくてもいい。労わるように手を体毛にそって滑らせれば、ぞわりと体の中から何かが抜けていく。きっとそれが私の生気をすねこすりが吸っている感覚。でも構わない。こんなものじゃ私は死なない。
狼狽えるすねこすりを安心させるように何度も体毛を撫でる。肩の傷も私が撫でるたびに漏れる妖気が少なくなっていき、暫くするときれいにふさがった。
こんなものか、と手を離せば驚いたように私を見つめるすねこすりがいる。


「ね?平気だったでしょ?」
「な、んで…お前、何者…」
「人間だよ。普通の人とは違うけど」


中身は人間と同じ。違うのは人よりも桁違いに生気を持っている事。人にはできないことができて、見えないものが見えるという事。


「でも、おかげで貴方を救えたよ」


まっすぐにすねこすりを見つめて私は笑う。ただ純粋にすねこすりが助かってよかったと安心したから。そんな私を見ていたすねこすりの瞳から雨とは違う雫が零れた。それは雨よりも大きい、涙。


「貴方を助けられて、よかった」


後から後から溢れる涙はすねこすりの体に比例するように小さくなっていく。普通の猫のサイズと変わらない大きさになったすねこすりは、わんわんと声を上げて泣いた。




▽▲▽




「さてと、そろそろ鬼太郎たちの元にいかないと」


あれから泣き続けるすねこすりを抱いて大木の下で休んでいた私は、すねこすりを抱いたままゆっくりと立ち上がった。


「すねこすり、貴方も一緒にくる?」
「いいのか?」
「勿論」


雨で湿ってしまったけれど柔らかい体毛を撫でれば、すねこすりは気持ちよさそうに瞳を細めた。どう?と再度返答を催促すれば、少し考えるそぶりをした後、すねこすりは小さく頷いてくれた。


「じゃぁ、行こうか」


落とさないように抱く腕を直して森の道を歩く。来た道を戻ればいつしか整備された道に出るだろうし、もしだめだったら鬼太郎が探してくれるだろう。楽観的な考えをもちながら歩き出して、ふと私はあることを聞き忘れていたことに気が付いて腕の中のすねこすりを見た。


「そう言えば、貴方の名前は?」


すねこすりは腕の中で暫く迷ったように黙っていたが、意を決したように口を開いていった。


「俺の名前は、シロ」


□ ■ □ ■


簡単な夢主設定:鬼太郎と知り合い。人間。生命力がある。妖怪見える。戦闘も可能。

「厄運のすねこすり」のすねこすりを救いたくて書きました。死なずにあの後もずっと生きてほしいです…
妖怪大戦争のすねこすりといい、厄運のすねこすりといい、すねこすりって可愛いのしかいないのかな?天使なのかな?
次回の幽霊電車も楽しみです


prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -