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南馬鹿 九を抱いて居眠りする

この刑務所に、大きな休みというものはない。時々体調不良などで休みをもらう事があっても、世で言う夏休みや冬休みといったまとまった休みはない。
それと同じく、繁忙期というものも存在はしないが、私にとっては年中繁忙期が続いているようなものだった。原因は自分の容量の悪さであるが、それを理由にサボるなんてことなんでできるわけもない。
毎日パソコンと向き合い、必死に渡された仕事をこなしていく。それでも疲労はたまるわけで、急がなければという気持ちとは裏腹に、作業は徐々にスピードが落ちていっていた。


「はぁ…」


机に額をつけて零れ落ちたのは深いため息だった。少し視線を横にずらせばそこにはこんもりと積まれている書類の山。
それをぺらぺらとめくって後どれくらいあるのだろうかと思考することさえ、今は億劫だった。いつも周りにいる主任や副主任達は脱獄した囚人たちの対応のために出払っている。
随時流れてくる放送を聞いて、今どこに逃げた囚人がいるのか把握しつつ、また私の口から零れるのはため息。
本当は彼らを捕まえる作業に私も同行しなければいけないんだろう。けれど、いざ行こうと立ち上がった私に主任が下したのは此処での待機と事務作業だった。
相手は武器は持っていなくても男。女性の私はどう頑張っても力では勝てないので、足手まといになってしまうからだろう。
直接主任にそう言われたわけではないけれど、彼の口調と空気がそう言っているように感じた。


「私、此処にいてもいいのかな…」


ぽつりと零れた独り言に返事は返ってこない。当たり前の事だが、それがなぜか今は悲しくてしょうがなかった。
ずりずりと机に額をこすりつけていると、膝に何やらもふもふしたものがのっかった感触がする。なんだと目を動かせば、そこにいるのは黒い塊。


「ナーウ」


どこかのんびりとした声で鳴いたのは主任の次にここでの仕事歴が長い九。私の心境を知ってか知らずか、彼はその柔らかな体を私にすりつけてきた。
そのふわふわとした体毛の感触に自然と手が伸びる。ゆっくりと九の体を撫でれば、彼は気持ちよさそうに瞳を細めて手に体を押し付けてきた。


「九も、今日は事務室待機?」
「ニャウ」


まるで、そうだよ、というように返ってきた鳴き声に軽く表情が和らぐ。此処にいるのは自分一人ではない、それがわかっただけでさっきまで沈んでいた気分がいくらか軽くなる。驚かさないように彼の体を持ち上げて抱きしめれば、じんわりとした温かさが服を伝って届く。その心地よさに自然と落ちてくる瞼。先ほどまで耳にずっと入っていた放送すらも、今は遠くに聞こえてくる。こんなところ、主任に見つかったらきっと怒鳴られてしまう。ちゃんと業務をしなければと思いつつ、私の目はゆっくりと閉じていく。


「まぁ…必ず出さなくちゃいけないのは終わってるし、いいかな…」


とろとろと睡魔に身を任せながら言い訳のように言ってみると、肯定するように私に体を預ける九がまた鳴く。私よりも上の立場と言われている彼がこう言ってくれているんだ、きっといいんだろう。眠さであまり回らない頭でそんな事を考えて、私はその身を睡魔にゆっくりと任せた。


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