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物語 ある少女と詐欺師の話

物語シリーズ|貝木とある少女の話

年が明けてそうたっていない頃だったろうか。しんしんと雪が降り積もる道の先に、見慣れた黒くひょろりと長い体を見つけた。
あぁ、扇ちゃんが教えてくれた通りだ、と不意にそんな思考が頭をよぎったが、それよりも体が勝手に動いていた。
地面に積もった雪を巻き上げながらぴくりとも動かない体に近づき、つんつんと頭付近をつついてみる。彼の顔の周りはまるでペンキをこぼしたように赤く、それが白い雪でさらに鮮明に見えた。


「貝木さん」


そっと名前を呼んでみても彼からの返事はない。いつもどこかだるそうに世界を見ていたその瞳はしっかりと閉じられ、開かれる気配はなかった。


「ここに行けば、あなたが求める人に会えると思いますよ。ただ、お話ができるかはわかりませんが」


――そこはあなたの運次第ですかね…。

どこか楽しげに深淵のような黒い瞳が細められ、長い袖から渡された一枚の地図。できる限り早めにと思って走っては来たけれど、もう彼は話ができる状態ではなかった。
きつく結ばれたその口から、もうあの名言とも取れる言葉は聞けないのだろう。それがとても悲しかった。


「貝木さん…」


降り積もる雪で冷えてしまった冷たい体。数度その髪を撫でてから、優しく頭を抱いて膝へとのせてやる。彼が話せる状態であったなら、きっとそんなことを許してくれることはない。けれど、今の彼は話すことはない。動くこともない。


「お疲れ様でした、ゆっくり、休まれてください」


その意地悪な態度の裏に隠された優しい気持ち。それを、ずっと一歩ひいたところで見てきた私が彼に送ることができる精一杯の言葉は、無音の世界に溶けて消えていった。

□ ■ □ ■


もしも貝木があのまま死んでいたら、という妄想で書きました。
まだアニメしか見ていないので貝木は死んでしまったのか、それともまだ生きているのか疑問に思っています。
けど、のちの花物語で再登場しているので…生きている…のかな…?
ちまちま原作も集めているので、読みつつゆっくりと考えていこうと思います。
それで、いつになれば戯言と人間シリーズはアニメ化するんでしょうかね?数年前からずっと待機しているんですが


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