かおり。

 カヲからもらったお菓子を食べながら今頃手術は終わったんだろうな、なんて考える。
私の病室に看護師さんが入ってくる。
ご飯です、なんて屈託のない笑顔でいう看護師さん。
その表情や雰囲気からもうこの人は優しくていい人なんだろうな、なんてことが分かる。
私は、他の人からどんな風に見られているんだろうか。
カヲがもってきたチョコレイトの包みを開けると
甘い匂いは直接私の体内に入り込んできた。
看護師さんは私の部屋から出て行った。
それからしばらくして扉のほうからくすくすと笑い声が聞こえた。カヲだ。
「カヲ、手術終わったの?」
「さっき終わったよ」
「そんなすぐ動いて大丈夫なの」
私の前まで来てカヲは逃げ出してきちゃったかな、なんて笑いながら言う。
何をやっているんだか。私は呆れながらも帰れとは言わないでおいた。
「そこのチョコレイト、食べていい?」
カヲは残っているチョコレイトを指していう。
首を縦に振るとカヲはすぐチョコレイトに手を伸ばし、包みを開いて口に放り込んだ。
「カヲってば手術後でも食い意地張ってるね」
「……名前」
口をあひるみたくして呟くカヲ。
そんなに呼んでほしいんだろうか。
あひるになりながらも口にお菓子を放り込んでいるところを見ると別にどっちでも、という風に見えるのだが。
「ホラ、手術成功したご褒美に、ね」
「10人中9人は成功するんでしょ……」
「いいからさ」
なぜそんなに呼んでほしいんだろうか。
理由は分からないが一回呼んどけばいいだろうと思い、カヲリと呼ぶ。
するとあひる口をやめてにこりと笑って私のほうを向いた。
「みぃな、可愛い」
また冗談、もしくはお世辞か。はいはい、なんて返せばけらけらと笑われる。
面白いのか、そんなの。カヲの笑いどころが分からない。
 それから適当にしゃべって話して、カヲにもうそろそろ看護婦さん来るよ。
なんていえばカヲは帰っていった。
テーブルの上を見ればチョコレイトが一つだけ残っている。
全部食べていかなかったんだ。
チョコレイトを手にとってじっと見る。
綺麗な包み、というだけでほかと対して変わらないんだけれどずっとずっととっておきたい、ふいにそう思った。
「みいな!みいな!!」
聞きなれた音が怒鳴り声を上げている。
何事だ、と思いまぶたを上にあげて視界を開けば母さんがいた。
どうやら寝てしまったらしい。頭がぼうっとする。
もう一回、母さんを見ると顔が青ざめていた。
一体何があったの? 
ふにゃふにゃとした声で聞けば母さんははっきりゆっくりと事実を伝えてきた。
「蓮田くん、目が覚めたんだって」
「へぇ? よかったね……」
蓮田くんというのはカヲリのことだ。蓮田カヲリ、これがカヲの本名だ。
目が覚めた、ってさっき私のところにいたじゃないか。
変なの、なんて思いながらまためを閉じようとすれば母さんは声を出した。
「それが精神不安定状態なんだって」
「せいしんふあんていじょうたい?」
こくりと頷き母さんは続ける。
「幻覚が見えてるわけじゃないらしいけどみるもの全てに怯えてるようなんだって」
「何言ってんの母さん。おやつの時間にカヲリ私のところに来たよ?」
母さんはきっとぼけているんだ。もうとしだから。
苦笑しながら母さんを見れば目を見開いていった。
「何言ってんのはあんたよ! 
手術は朝から始まって終わったのは夕方よ?
おやつの時間にあんたのとこにこれるわけないじゃない」
「え、」
「それにもしかしたら記憶喪失かもしれないって。
蓮田くんの病気って手術して成功しても脳に後遺症が残る可能性高いらしいの。
昨日もそれですごく心配していたんだけどね」
「え……」
とりあえずそれだけ。なんて素っ気なく言って母さんは、私の部屋から出て行った。

/かおり。

まえのぺーじのつづき。

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