消却不能のアレグロ ぺザンテ

重苦しい雰囲気にしているのは自分だという自覚はしっかり持っているのだがそれを自分で取り払えるほど私は器用な人間ではないのだ、隣の男にそれを理解していただきたい。
「ねぇ、なんでさっきからずっと俯いてるの」
「さて、ね」
予想外だった。いやむしろ私が予想できたら私には予知能力でもあるんじゃないかと思えるほど予想できないものだ、普通は。テーブルに置いてあるコップの中身をストローを通して口に入れる。苦い、苦い。冷えているとほろ苦いではなくなる、ただの苦いだ。まとわりつく空気の重さとコップの中のコーヒーの苦さは見事混ざり合って私の気持ちを暗い、暗い色に染め上げた。ああ、隣の男に憎しみが沸く。
「あぁ、もしかしてさっきのこと? 気にしてないから別にいいよ」
お前が気になっていなくても店内にいる人間や私にとっては頭に残るものだったんだよ、この阿呆。
「何の知らせも入れずにのこのこ来たこっちも悪かったしさ」
ああああ。これ以上傷を抉るな、数十分前の出来事を蒸し返すな。
足枷付けられて手首に手錠つけられてノンストップでずっと深くに沈み行く私、そんな私をこいつは船の上からボーっと見下ろすんだ。そして気付けば私は底の地面に足が付く。悲しみじゃない、これは恥だ、恥。そして悔しさ。ああ、もう止まらない止まれない。なぜなら私はカナヅチだから

/消却不能のアレグロ ぺザンテ

アレグロ→快速に 
ぺザンテ→重々しく。

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