魅せる音

声変わりしてから仲のいい奴らにひたすら言われるようになったことがある。普段は冗談と受け取り笑ってふざけんなよーなんて言えるのだが異口同音に言われちゃあさすがに悲しくなる。

「お前、あんまり公の場で声出すなよ」

そんなにうるさくした覚えはない。確かに授業中とかはふざけてる。うるさい、声上げる。んで怒られる。つーか公の場って何だよ。
おしゃべりでいつでもどこでも誰にでも話しかけたいような俺が、いや別にそこまで話したくはないがとにかく音を出さないというのは不可能だ。
そんなわけで毎回「いやー、むりだわ」なんて適当に反対する。
そうすると奴らは苦笑したりどうなってもしらないからな、何ていってくる。
俺の声がそんなに嫌いか。
そんなに蛙が潰れた様な酷い声か。
それとも妙に通った声で気持ち悪いか。
だから不良に喧嘩吹っかけられるとでも言いたいのか。

これを幼馴染の由理子に愚痴としてぶつければ由理子はいつものようにおばちゃんみたいに豪快に笑ってからにやけた顔のまま俺のほうを向いていった。
「確かにねー、むかついてんじゃない?特に倉山辺り」
「倉山? あいつの声より俺の声が酷いってか!?」
倉山ボイスはすごい。生まれつきの濁声なのに妙に甲高くて耳に障る声だ。そのガラガラ具合と声が常時裏返ったような話し方が周りをイラつかせる、素晴らしい声の持ち主だ。
まさか俺の方があいつよりひどかったとしたら、俺は家で一人でこっそり泣きたい。体育座りで俯いて兄貴に気付かれないような音量で。
自分の思考に集中して由理子の声を無視、というかスルーしていたら腹を殴られた。
空手やってるだけあって痛い、何で由理子はこんな勇ましくなってしまったんだろう、幼馴染として残念だ。
「人の話聞けこの馬鹿野郎」
「すみませんでした……。腹痛いんだけど……」
「あたしを無視するお前が悪いの」
「にしたってひでえよ、ひでえ。マジで痛いから」
「うるさいな。それよりも倉山より酷いとか言ってたけどそりゃ絶対ない」
「あ? じゃあ何で」
「あんたの声あれなのよ、何ていうかー……うーん」
何だよ、うざったいか?耳障りか?言いたいなら早く言え!

「あ、分かった!あんたの声 」

/魅せる音

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