short | ナノ




86.5% 青春



「っ痛い!!」


「おっとぉ、手が滑ったぁ。ごっめーん」


「鉢屋…!」



頭に鈍い衝撃を覚えて振り返れば、奴がいた
教科書やら筆箱やらを持って、にやにや気味の悪い笑みを浮かべている
元々端正な顔つきをしている鉢屋は、そんな表情さえ様になるから腹立つ



「…何の用よ」



「べっつに?お前が一人さびしく移動してるから?かっわいそぉっと思って?」



「余計なお世話なんだけど」



「そういう態度とるからお前は友達が少ないんだ」



こら三郎!!
不破くんが鉢屋のことを後ろから叱るような口調で言う




「なんだよ雷蔵。本当のことだろ」



「お前ね…」



全く悪びれる様子のない鉢屋の態度に不破くんですら何も言えなくなってしまう
いいんだ、不破くん。その心遣いが嬉しいよ、例え鉢屋がどんなにウザくとも



「不破くん、ありがと。気にしてないから」



そう言いつつ不破くんに笑顔を向ければ、不破くんは申し訳なさそうに笑ってごめんねと一言。
鉢屋と不破くんは、顔がクリソツである。
双子かな…と前に聞いてみたら(もちろん不破くんに)うーん、そんなとこかな?と言われた。

なんで、同じ顔なのにココまで違うんだろう
つくづく疑問に思う

白けた目線を鉢屋に向ければ、不機嫌そうな顔をしていた
なんだ、私が何をしたというんだ



「おい、雷蔵。こんな奴相手に謝んなよ」



馬鹿が移るぞ




はい、かっちーん
今のは頭に来たよ鉢屋。
しかも馬鹿が移るのは、謝ったらじゃないし。会話したらだし。


馬鹿はどっちだ

腹が立った
もう面倒くさいから放っておこう



「なあ」



つーん



「おい」



つーん



「ってめぇ…」



ふーんだ
日頃の行いが悪いからだ!



「おいみょうじ!」



「しらなーい、あ、もうこんな時間だ。不破くんこんな奴ほっといて行こ?」


授業に遅れちゃうよ



そういって不破くんの腕を掴んで歩き出す。
鉢屋はめちゃめちゃ悔しそうな顔でこちらを睨んでくる

いい気味よ。私に不破くんが取られて悔しいかぁ。そうだろうそうだろう
いつも泣かされる仕返しだ。泣いてないけど。あ、やっぱちょっと泣いたかも

鉢屋なんてお構いなしに不破くんの腕をつかみながらどんどん進んでく
後ろから鉢屋が追いかけてきて、なんか色々言ってくるけど、この際無視


すると、あと少しで教室だ。というところで不破くんが口を開いた




「なまえちゃん、許してあげて?三郎も悪気があったわけじゃないんだ、ただ素直になれないからああいうことを言ってしまうんだよ」



ごめんね



不破くんスマイルでそう言われると、もうさすがに怒る気なんかになれなくて。
私はしぶしぶ歩みを止めて、不破くんの腕を放した

そこはもう教室の前で、鉢屋くんが追いかけてくるのが見えた
そして鉢屋くんは私たちに追いつく



「みょうじ、お前何すんだよ」



「なにか文句でも?」



「お前ほっんと腹立つ…!まじ可愛くねえ…!!」



「こら三郎!お前ね!いくら素直になれないからって、好きな女の子にそんなこと言っちゃ駄目だよ!あんまり捻くれてばかりいると本当に嫌われるよ!」




……Pardon?



いやいや、まさかそんなはずは。



鉢屋が?

私を?

好きだと?



不破くんもたちの悪い冗談を言いなさる
そう言って、奴らを見れば。



「ばっ、雷蔵!お前なに言って…!」



「え?…ああ!ごめん三郎!」



顔が真っ赤な鉢屋と、自分の爆弾発言に気が付いた不破くんがわたわたしていた
鉢屋があのポーカーフェイスを崩して、顔が真っ赤になってるなんてそうそうあることじゃないし


これは、もしかすると。ほんとのほんとに…



「鉢屋、私のこと好きなの?」



「っ!それがどうした馬鹿野郎!ああ、好きだよ!入学したときからな!」



始業開始のチャイムが鳴ったと同時に、私は鉢屋と同じ色になった








 86.5% 青春
  (残る13.5%は涙でできている)









素直になれない鉢屋くん