short | ナノ




生き揚々と



なんか色々と暗い




ざくり、





それを切ったら、新鮮で、美しくて、狂ったような赤色が流れるのでしょう。
痛いんですよね、あれ。刺し所が悪かったなら、その人は動かなくなってしまうのでしょう。
だんだん顔が白くなっていって、アタマがぼぅっとするのかしら。視界がだんだんかすんでいって、真っ白になるのかな。それとも真っ黒かしら。自分の名前を呼ぶ声だけが、聞こえて、それすらもだんだんとぐちゃぐちゃになって。





そうやって人って死んでいくのね。




「なまえ!!」


「はぁい」


「何を…」


「菊さん、すごいんですよ。私の腕は切ったら血液が出るんですよ」


「なんてことを…なまえ、こちらへ来なさい。手当をしないと」


「いーんですよ。自分でやったことなので。」


大して痛くもないんです。これなら、箪笥の角に小指をぶつけたほうが何倍痛いことか。
それがあまりにもおかしいから、笑みをこぼした。菊さんの黒くて大きな瞳が一段と大きくなって、綺麗だこと。


「嗚呼、人生って何かしらね。縁側で寝転んで、お茶を飲んで、猫とのんびりするのが人生だといいのに。人の子は、老いていくのを嫌がるわ。でも、置いていかれるほうが辛いのを、あの方たちが知らない。」


「なまえ。」


「どうして、人は。涙が出てくると笑っちゃう。おばさんになったものよねぇ、私。」


「なまえ」


「あははははは。今更、痛くなってきて。」





腕が濡れているのは、私のせいではなかった。
菊さんが泣いていた。


ぐい、と菊さんが私の腕を引っ張る。
ぽたり、私の生きている証が落ちた





生き揚々と、
 (血と皮と骨と、涙を)