short | ナノ




人生の真実は、美味で、恐ろしく、魅力的で、



しょうがない
俺は国だ

いつもそう思うことにしておく
断じてそう思っているわけじゃない


そう思わないと、心が割れてしまう



お兄さん、ガラスのハートだから
以前、隣のガラの悪い坊ちゃんにそういったら
思い切り、ハァ??頭大丈夫かといわれた
へこんだ


でも、ガラスのハートだったら、こんなに長く生きていられないだろう
ガラスが割れたら、もう戻らない
砕けたら、ほかの誰かを傷つける



「苦しくて、死んでしまいそうだ」


「でも実際死なないのでしょう?」


あなたは国だから。


昔、彼女がそう言った。
強く、美しく、はかない少女だった
女神、そう呼ぶに等しい


だけど、彼女はいなくなった。
俺は彼女の最期に間に合わなかった

彼女は、悲しそうな笑顔で


旅立ったのだそうだ





悲しかったと思う。
何せ幾分と前のことで、感情なんて。
だけれど、そのとき
胸が抉れたこと、呼吸をするのが苦しかったこと、頬を冷たいものが伝ったこと


それだけ、覚えてる



「ね?お兄さん、結構繊細でしょ?」


「はあ…勤務中に言うことではないと思いますが」


立場をわきまえてください


目の前の彼女はそう言った
まっすぐな瞳が俺をとらえる


それだけでなぜか、あの時の感覚が蘇りそうになるになる
俺はそれをごまかすように、小さく息を吐いた


それを見ていた彼女は、口を開く


「その女性は…かの有名なジャンヌ・ダルクですか」


頭を、石で殴られたような気がした
なぜ、知っているのか。そう聞こうとしてやめた
彼女は、後世に名を残す「勝利の女神」であったではないか


「気高く、強い人だったそうで。神に愛された女性であるとか」


彼女は書類に目を通しながら淡々という
彼女の質問はいつも事務的で、今だって興味があるのかないのか分からない


「ああ。初めて見た時、それはそれは…美しいったらありゃしない。純粋で、何も知らない少女だった」


だから、俺のためになんかで、簡単に。
もっと違う未来があったかもしれないのに、勝利の女神なんか呼ばれちゃって
先頭切って戦って、挙句の果てにさ


途中から、自分に向けていっていた。
そうだよ、なんであの子は俺なんかのために

それを聞いていた彼女はそっと口を開いた


「それは…本当でしょうか?」


「え?」


「彼女は本当に何も知らなかったのでしょうか。知っていて、貴方のために戦ったのでしょう?あなたが苦しんでいるのを知っていたからこそ、その心やさしい少女は放ってはおけなかった。」



純粋に、貴方が好きだったのではないでしょうか






呼吸が止まる
あぁ、そうだよ。この感じだよ、彼女を失った時の感覚は。
目の前に背筋を伸ばして立っている彼女は、呆然としたままの俺を見てすこし気まずそうに身じろぐ


「まあ、私の意見ですけれど。今となっては本当のことはわかりかねませんから」


仕事に戻ってください。終わらないと帰れませんよ



そう言ってそっぽを向くなまえに、少しだけ彼女を重ねた



『少しは休んでください。あなたが倒れては元も子もありませんから』

そう言って、確かあの子もそっぽを向いた
理由は違うけれど、似ていたんだ
すこしだけ泣きそうになった
ふけたな、俺



あの瞳にも一度貫かれて、仮面をかぶれる自信はない




人生の真実は、美味で、恐ろしく、魅力的で、
(俺の家の詩人が言った。だけど俺はソレを理解することができない)





フランス人!!!
方舟といういい方は…深いですね