それどころじゃない



私が思っていたより、高校生は大変だった。


「やばい、やばいよ**。なにがやばいって…」

「数学でしょ。授業にあんたみてりゃわかるわよ」

「**、お願い**。教えて」

「いやですよー、笹山くんに古典教えてもらいに行くから。」


くそ、やっぱ恋なんか理解できない。
なんだその教えてもらうって。笹山、古典できんのか?
それよりまず**は全体的に成績良だったはずだ。


「古典だってできるくせにさ」

「え?なに?◎◎古典できんの?教えてよ!」

「……え」


いつからそこにいた団蔵。
私の視界に急に飛び込んできた、いつもより少し眉尻を下げた情けない表情に顔をしかめた。


「いや、できるっていうか。普通だし、他人に教えるレベルではないというか…」

「お願い!そこを!なんとか!古典がやばい!」


古典うんぬんよりまず数学が…。という私の呟きは当然のごとく、団蔵の耳には入らない。最上級の「お願い顔」を浮かべて頼み込んでくる団蔵にうっと息を詰まらせる。

要するに、なんだかんだで私は団蔵に甘いのだ。自覚済みである。
数学への不安は消えないまま、わたしは頭をゆっくりと縦に振った。











団蔵に古典を教えるとは言った。あいつの「やばい」は洒落にならない「やばい」だからある程度骨が折れることも予想していた。だけど。


「なんか…人数多くないですか?」

「我々のなかで頭が一番弱いと有名な、あの団蔵が勉強するというのでね。」

「黒木…」


約束通り、放課後に団蔵の部屋にお邪魔をすると、すでにそこにはたくさんの「お邪魔者」がいた。団蔵の愉快な仲間たちである。


「いや…俺が◎◎に勉強教えてもらうっていったらついてくるってこいつらが…」

「まあ、黒木はいいよ。成績優秀で、私よりも教えるのがうまいから。だけどね、」


苦笑いで私に話しかける団蔵の背後であの有名なメーカーの「油で揚げたスライス芋」を食べながらわいわいやっている野郎どもを一瞥した。


した、ところで。


皆本の姿を発見する。


「あ、皆本。」

「ど、どうもお邪魔してます…」

「いや、俺んちだからな」


団蔵から突っ込みを受けた皆本は相変わらず長い睫を瞬かせた。
皆本は一瞬キョトンと呆けた顔になって、それから「そうだった」と軽く照れた笑顔を見せた。


きゅんっ




…きゅんっ?


いやいや待って!きゅんって何!!なにこれ!!
この淡い苦しさの正体はわかっているけれど、なぜか焦る。


だって、この苦しさはまさしく!

それの、正体を自分ではっきりと言ったばかりだ


恋はきゅんっとなるって、ミルクティーの香りに包まれながら確かにそう言った。



言ったけれど!!

こんなのは反則じゃないか!





「……◎◎?」


頭のなかで一人大混乱を起こしていた私を、現実に引き戻したのは団蔵の声だった。
どうやら、数秒間の間、何も言わずに硬直していたらしい。



「なんでもないけど…」

「ほんとか?なんかすっげえ固まってたけど」

「なんでもないって言ってるじゃん。虫がいたんだよ、しつこいなバカ」

「ひっでえな!」


叫んでいる団蔵を後目にちらりと皆本を見る。
皆本はいまこちらで起こっていることには無関心だったらしく、団蔵の古典のプリントを見ていた。


やっぱり睫毛長い。
なぜ、初対面であんなことを言ってしまったのだろうと今になって後悔する。

どうすればいいのだろうか、特大の溜息をついた。



ふふふ、という妙な笑い声に嫌な予感がして、後ろを振り返れば、黒木がこちらを楽しそうにみていた。


「××も案外、若いんだねえ」

「なっ…!」



それどころじゃない
(テストが迫ってまいりました)




「あーもう!!テストも団蔵も大嫌いだ!!」

「なんで俺!?」




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
数学が苦手なのは他でもない私です。
それと、ほかのは組が空気

もっと定期的に更新がしたい
すいません

13.8.24 のめこ