部活と竹刀と、それからボール



「ねぇ、◎◎は部活どうするの?」

「…あ。決めてないわ。**は?」

「私は……吹奏楽部とか…?」


**、中学んときも吹奏楽部だったもんねー。とパックのストローを吸いながら、思い出すように言う。そうすると少し照れたように笑って、うん。という**。
おーかわいいねぇ。そう冷やかすように言うと、やめてよと怒られた。というところで先生が入ってきて、雑談終了。

だがしかし、先生の言葉など微塵も入ってこない
部活である。なにがって、サッカー部のマネージャーである。団蔵がうるさい。でも私、そういうのは性に合わないの。団蔵だってわかっているはずなのに。
**に部活の話題を振られた時からずっと、マネージャーをどうするかどうか考えていた。あと2日で入部届を提出しなければならない。


「で、どうしたらいいですかね?」

「…どうして自分なんですかね」

「団蔵と私の共通の知り合いが君だから」

「ほかにもいるだろ…」

「君がたまたま通りかかったから。」

「…あぁ」


目の前の彼は面倒臭そうに返事をした。まったく睫毛長いといったことを、まだ根に持っているのだろうか。めんどくせぇ
それでも、ため息をつきながらだけれど逃げずに話を聞こうとしているので、一応イイやつなんだろうな
うん、きっとそうに違いない
私は頬杖をつきながら、彼を見つめた。
いや、そういうんじゃないから







訳が分からない。
なぜ自分がこんなところで女の子の相談に乗らなければならないのか。
こっちは、純とした男なわけであって、マネージャーに誘われて困っている女の子の気持ちなんてこれっぽちも分かりやしない。
にも関わらず、彼女はこちらを見つめてくる。なんだその期待の眼差しは。


「…どうすればいいですかね」

「えー…じゃあ、」



別の部活に入ってしまうというのはどうだろうか




彼は、言った。それだよ。全ての始まりはその一言だったりするんだよ。
私は未来を知らないけれど、きっとそういう何気の無い一言で世界は動きだしたりするんだよ。ゴゴゴゴって音がする。
まあ冗談の範囲ですが。




「よし、それでいこう。」


「いいんじゃないかな?で、どの部活に入るの?」

「そう。そこが問題なんだよなぁ。」

「何か得意なものとかは… 」

「そうだなぁ…本を読むことと、寝ることと、ゆっくりすることかな。あ、音楽を聴くのも」

「それは、好きなものじゃないか…?」

「そうともいうな。」


僕が見たところ、彼女は変わっている。いや、きっと彼女はだれの目にも変わって見えているのだろうな。あ、中身の話だ。彼女と話さないと変わっていると言うのがわからないのか。
じゃあ、そう簡単に変わっているとはわからないだろうな。なんせ彼女はとてもまともな外見だから。


「…本を読むのが好きなら、文芸部とかは?」

「文芸部ねぇ…。」

「話を書くのは嫌い?」

「好きだけど…続きそうにない」

「めんどくさ」

「あ…今、禁句言ったな。」


あまりにも彼女の部活が決まらないものだから、僕は言ってやった。もちろん諦めてサッカー部のマネージャーになれと言ったのではない。いくら僕でも、そんな冗談は言わない。
ただ一言。


僕にとっても運命が変わるような




「じゃあ、僕と一緒に剣道部に入る?」




一言だった。




僕と、という表現に一瞬面食らったらしい彼女は、その大きな眼を瞬かせた。
のも、つかの間、彼女は笑った。




「うん。そうしよう、皆本くん。」





彼女は、××さんはそう言って笑った。





部活と竹刀と、それからボール
 (運命が動き出すときは音がするってどっかの本に書いてあったわ。)









2012.10.28 ちょこっと変えました