午前8時25分



「あんた、睫毛長いんだねぇ」


団蔵の幼馴染らしい女の子にそう言われてはや三日
あの睫毛長い発言は、僕に向かって言ったものだったらしい
最初は、あーきり丸あたりとか顔整ってるからなぁ。とか思ってたのに言われた相手が自分だと知った時はそりゃもう驚いた。
団蔵が僕らを交互にみていきなり笑いだしたもんだから、急に恥ずかしくなって団蔵の頭を叩いた。


学校の様子はどうだ。とかなんとか聞かれたらそのことしか特にない。
強いて言えば、今は部活動の仮入部やらの期間である。僕はもう仮入部とか関係なしに入るつもりでいるが。
周りからは部活どうするとかそういう類の会話がちらほら聞こえる。そういえば僕は知ったこっちゃないが、あの◎◎とか言う女の子はどうするのだろうとか漠然と思った。教室までの廊下が長く感じた。









「おーねーがーいー」

「あーうん、考えとくね。」

「その反応、絶対入る気ねぇだろ」

「分かったから早くしよ。私まで遅刻するから。」



待って、あとちょっと。が何回続けばいいのだろうか。
これで終わりと、団蔵がネクタイを手に取ったのを確認してから、「団蔵の家」のドアを開けた。まったく、中学の時から遅刻癖は全く変わっていない。


「なー頼むって。サッカー部のマネージャーになってよ」

「いやだっつってんだろ」

「怖ぇよ…。◎◎がいねーと俺は朝起きれないのー!!」

「私を巻きこまないでよ。もういい年なんだから自分で何とかしなさいな」

「お母さんかっ」


団蔵が自転車を引っ張りだしながらそう叫ぶ。徒歩は間に合わない。走るのもだるい。というわけで真打ち・自転車のお出ましだ。ちなみに私の自転車は壊れているので(電柱に激突したのだ。乗っていたのは私じゃなくて団蔵である)当然二人乗りである。二人乗りは今は違法なんだろうが、まあしょうがない。
鍵穴が相当錆びているのだろうか、ガチャガチャと苦戦している団蔵に本気でいらっとした私は今すぐ団蔵を置いて、その自転車で学校に向かいたいという気分になった。そんなことをしても団蔵のことだから走って追いかけてくるのだろうが。


「よっしゃ来た!!◎◎乗って!!」

「間に合うかねぇ」

「間に合わせる!ガチでしっかり捕まってて!」


私が団蔵にしがみついたと同時に走り出した自転車は、どんどん加速していく。私だったらこんなスピードは出せないなぁ。団蔵もやはり男の子なのだ。目の前の上下する肩と背中を見つめ、いつの間にか大きくなったなぁとかばば臭いことを考えていた。








重い。必死に漕いでいるのでかなり疲れる。重いとか口に出したら、◎◎にシバかれること確実なので黙って漕ぐ。違うんだよ。◎◎が重いわけじゃない。人二人が乗った自転車は当然重いじゃないか。疲れるけど、ね、いいじゃん。色々と。手身近に言えば胸が当たるんですよね。…恥ずかしっ。


「あと10分だよー」

「任せろって…。だ、大丈夫だよ」

「任せられるかボケ」


のん気に周りを見渡して俺に警告をする◎◎。俺らの学校の生徒はもう一人といない。ちっくしょーのんきにしやがって、胸当たってんだよこの野郎。

いつの間にか◎◎は変わっていた。体つきは女っぽくなっていて、胸もそれなりにあるし、肩幅だって狭い。幼いころに傷ばかり作っていた腕は今、俺の腹にまわされている。その腕があまりに細くて白くて色っぽいもんだから、俺は思わずどきりとした。
校門が見えた。なんとか間に合うかなぁと、ぼんやりと思う。




 午前8時25分
  (それぞれの朝)