6話




あの行為に意味等あったのだろうか。
ただそんな疑問だけを胸に感じて、雲雀はふっと意識を飛ばした。






































「なあ、お前アラウディから離れてくれねー?直ぐにとは言わねえから」

筆の走る音しか聞こえなかった風紀委員室の中で、跳ね馬の声はやけに煩く響いた。
あの、悪夢する日から数日後。
行為を終えた跳ね馬はさっさと部屋から出ていって、やっと己が意識を取り戻したのは深夜の事だった。
ハッと起き上がった時の腰の鈍痛は、今でもまざまざと思い出せる。
とても痛くて、そして、とても辛かった。
ああ犯されたのだと、あの時初めて気が付いたのだ。
そんな実感と共に襲い来るのは、悔しさと空虚な感情。
悔しい筈なのに、殺したい筈なのに。
なのに己の心には、まるで意思を無くしたかのように空っぽで。
フラつきながら家路を辿り、ベッドに倒れ込んだ事は覚えているけれど、次の日学校へ通ったのかは全く覚えていなかった。




「……わかったよ…」

まるで生気を失ったかのような雲雀の声。
先程まで走らせていた筆を止めて、跳ね馬を見るでもなく余所へと視線を向けた。
あの件があったから跳ね馬に服従しているわけではない。
あくまでもこれは自分の意思。
元よりアラウディと仲良くしている訳でも無いし、アラウディと特別関わる理由も無い。
有るとすれば、委員会活動についての方針について。
それに、跳ね馬へ反抗でもすればそれこそ危うい。
跳ね馬とあった件の事をアラウディに知られたくも無いし、公にするつもりもない。
最強の不良であり風紀委員長である己が副委員長の彼に犯されたなんて、流石に周知させる訳にはいかないし。
そんな屈辱は味わいたくはない。




「約束だぜ?…まあ、お前が恋のキューピッドになってくれるならまた別だけどな」
「バカ言わないで。それは君でどうにかしなよ」
「わーってるって。冗談だっつの」

ふざけたような発言に、雲雀は静かに言葉を吐いた。
そんな面倒事をする為に二人へ近づくぐらいなら、己が離れたほうが大分楽だ。
一々真に受け止める雲雀が不愉快らしく、面倒そうに冗談だと言いながらさっさと部屋から退室する跳ね馬を横目で見詰め、雲雀は一つ溜め息を吐いた。
アラウディから離れる事に未練等全く無いが、さて、どうやって離れていこうか。
あまり意図的にしても勘が鋭いアラウディには違和感を与えてしまうし、だからといって自然を意識し過ぎても怪しまれてしまう。
どうしたものかと考えながら、少々胸がチクリと痛んだ。











 



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