3話





むすっと不服そうな顔でひたすら口を動かしながら、明日の昼食はどうしようか等と考えていた。
よく考えてみれば、料理など作った事も無い。
何を作ればいいのか、そんな料理のネタすらも思い浮かばない。
そんな事を悶々と思案していると突然扉が開かれ、誰なのだと咄嗟に二人が振り返ると、そこにはあの副委員長が立っていた。
無造作にハネた黒髪、風紀の副委員長だとは思えないその乱れたシャツとネクタイ。
何故彼がこの場所へ居るのだと眉を潜めた雲雀。
そんな雲雀に見向きもせずに、跳ね馬は迷う事無くアラウディへと近付いていった。




「なんだよお前、いねーと思ったらこんな場所に居たのかよ」
「…何処にいようと僕の勝手だろ。邪魔しないで」

隣に腰掛ける跳ね馬にぐっと眉を寄せて、アラウディは嫌悪感を露にさせる。
邪魔しないでと冷たく言い放ち、まるで跳ね馬から避けるようにして雲雀の側へ身体を寄せ、おまけにフイと顔を逸らした。
突然此方へ接近してくるアラウディに雲雀は何なんだと不可解そうな表情をするものの、確かに人が増えた事には嫌悪感がある。
しかも、その相手が雲雀の嫌う人物なのだから尚更。
口を開かず、鋭い視線で跳ね馬を睨み付けて早く出ていけと訴えた。
当然、そんな視線に素直に従う跳ね馬ではないが。




「ンなガキに構ってねーで、オレとイイ事しようぜアラウディ」
「いらない。君と一緒にいると気分を害する」

まるで猫の威嚇のような擽ったい雲雀の視線に面倒そうに溜め息を吐いて、離れたアラウディの腕を引っ張り此方へ引き寄せる。
離せと抵抗しながらも、アラウディの口から出るのはやはり冷たく素っ気ない言葉。
そんな所がまた愛らしい。
嗜虐心を擽られる刺激に酔いしれながら、強く抱き締めた。




「ねえ、ガキって僕の事言ってるの?…」

そんな一方的な幸せを感じていた所で、ドスの声が割り込んでくる。
どうやら先程の発言が雲雀の逆鱗に触れたらしく、そこに立つのは先程までの彼ではなく、殺気を膨らませて今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を纏っていた。
人を殺す事に微塵の躊躇も無いその冷めた眼差し。
其処らの不良等軽く震え上がらせる程の怒りと殺気を滲ませて、雲雀は愛用の武器を構えた。




「おいおい、風紀委員長様が好戦的じゃ不味いんじゃねーの?たった一言の言葉でさ。沸点低すぎる所は流石、ガキだな」
「……咬み殺す…」

雲雀の視線を楽し気に受け止める跳ね馬は、謝罪する所か更に雲雀を怒らせる言葉を吐いて。
我慢の限界だとばかりに低く呟き、その腕にアラウディが抱かれている事等お構い無しに跳ね馬へ殴り掛かった。
全身の怒りと屈辱を腕に込めて、トンファーをふり下ろす。
しかし、それはあともう少しという所でぶつかる金属音と共に防がれてしまった。




「…止めろ。流石にここまでするとなると、風紀委員長の僕が黙っている訳にはいかない」

渾身の一撃とも言える雲雀の攻撃を、只の手錠と片腕で易々と受け止めるアラウディ。
腕に纏う風紀の腕章を横目で見て、雲雀の腕を跳ね返した。




「……もういい。帰る」

跳ね返された反動で後ろへ飛び退き、不機嫌そうに顔を歪めながらやっと発した言葉。
アラウディが止める声等気にもとめず、雲雀はさっさと屋上から姿を消してしまった。
勿論、跳ね馬を睨み付ける事も忘れずに。




「ひゅう♪やるじゃねーか」
「黙れ。元はと言えば君がここへ来なければこんな事にはならなかったんだ。いい加減、恭弥を挑発する言葉は控えて。前から言ってるだろ」
「さーな。オレはお前にしか興味ねーから、他のヤツがどうなろうと知った事じゃねえ」

暢気に口笛を吹く跳ね馬に対し、アラウディは静かな怒りを向ける。
せっかくの昼食を邪魔された事と、彼の為に作ってきた物が半分程残ったまま。
オマケに、以前から言っている事も聞いてくれないし。
我慢の限界は己にだってある訳で、いい加減にしろと怒りを露にさせた。
跳ね馬が自分に興味あろうが無かろうが、それこそ興味の対象外だ。
己はただ、雲雀と穏和な昼食をしたかっただけ。
けれど、去ってしまったものは仕方ないのだ。
そう区切りを付けて、小さく溜め息を吐きながら置きっぱなしになっていた弁当を片付けていく。
食べさせてくれよと手が伸びてきたが、それを容赦無く叩き落とす。
さっさと屋上から出ようとした所で、後ろから投げられた物を振り返りもせず受け止めた。
何なんだとその手に収まるそれを確認してみると、何処かの鍵だろうか。
見覚えの無い鍵に眉を寄せながら、鍵に付いているタグは見知らぬ店の名前で。




「今夜、その店に来いよ」

と、その言葉を聞いてこの鍵が何を意味しているのか、嫌でもわかった。
だって、度々同じ事を繰り返されていればそれとなくわかってしまうもので。
きっと、どこぞの卑猥なホテルだろう。
率直にそう考えて、一言で断った。




「好きでもないヤツと一緒に寝られる程、僕は飢えていないからね」

それだけ告げて、無下にも放った鍵。
あ、とか言って鍵を視線で追い掛ける跳ね馬だったが、学校裏の木々の茂みの中へと落ちてしまって。
何をするんだと視線を向けた時には既に遅く、アラウディの姿はそこには無かった。












 



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