11話




跳ね馬からの突然の問いに、アラウディは返答に困惑した。
何故って、まさかそんな事をわざわざ聞いてくるとは思わなかったから。




「別に、気にしてない。ただ同じ委員会で、似たような性格してるから親近感湧いただけ」

そう当たり障りの無い返事を返して、立ち上がろうとしたその腕を、跳ね馬はただ無言のまま掴み止めた。
先程から落ちた食べ物をふうふう息で吹きながら、ぽいぽいと口に放り込んでいたくせに。
普段、くれと言っても食べられないアラウディの手作り弁当を、落ちた食物だとしても今こうして食べている訳なのだから、比較的機嫌が良いかと思ったのだけれど。
それでも跳ね馬の表情は、何処か曇っていた。




「それだけじゃねーだろ。…お前今の顔、まるで恋人に振られたみたいな女の顔してんぜ」

そんな無機質な跳ね馬の声音に、ピクリと眉を顰める。
何を馬鹿な事を…。
そう口を開いた刹那、逞しい身体が覆い被さって、一瞬何が起こったのかとアラウディは瞬きを繰り返す。
先程まで目の前にあった部屋の壁は、今では天井に変わっていて、そして、焦点が絡み合う先には黒曜石の瞳。
欲と怒りと悲しみと。
そんな複雑な心情を珍しく素直に映し出しながら、跳ね馬の瞳はアラウディの視線を捉えて離さない。




「……妬けるなあ…。お前のこの目は、オレじゃなくてあのガキにばっか向いてる」
「…退いて」
「わざわざ気付かせんのも面倒だ…。そんな義理もねえ」
「聞いてるの。…退け」

訳がわからない言葉を並べ始める跳ね馬に、アラウディは苛立たし気に睨み付けた。
被さる身体を押し退けようと力を込めると、変わって脇から掌が押し込められる。




「っ、なにする…、!」

慌てたように腕に力を込めるものの、跳ね馬の身体はビクともしない。
そのまま無遠慮にベストとシャツを捲り上げて、現れた柔肌に掌を這わせていくと、嫌悪感からかアラウディの肌が栗立った。




「っ、…退けって言ってる、…!」
「退かねえよ。……お前が好きだ、すげえ…愛してる」

まるで身体の抵抗を押さえ込むように強く抱き締めて、アラウディの耳元で小さく囁く。
その体勢のままするすると掌を這わしていって、辿り着いた胸の飾りをきゅっと摘まみ潰した。




「っやめ、!…、君の事なんて、興味な…」
「だから、意識させるようにしてやってんだろ?なあ、大声出すと気付かれるぜ…?」

抱き込まれた状態で抵抗もロクに出来ないまま、胸の飾りを摘まんだ指先は悪戯に動く。
耳元で囁かれた言葉にアラウディが息を飲み込んで、頭上延長線上にある離れた扉に顔を向ける。
そのタイミングで、目の前に現れた白い首筋にかぶり付いた。




「っ、…」

途端に身体を強張らせて、首の筋が引き吊るのを感じる。
強く吸い付くと、濃い鬱血痕がくっきりと浮かび上がった。




「オレだけを見ろ」

まるで獲物を前にした肉食動物のように、その瞳は嫌な光を帯びてギラ付いていた。
嫌な予感しかしない。
そう頭の警鐘を鳴らし、跳ね馬の身体を全身の力で押し退けようと改めて腕に力を込めたその刹那。
気配も無く開かれた扉から表れたのは、先程アラウディを突き放したあの雲雀だった。









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