結汐様へ






「気持ちの良い朝だ…」


静かな声で、ぽつりと呟く一人の男。
縁側にある障子を小さく開き、そこから流れ込む穏やかな風が象牙色の髪を靡かせた。
そして気持ちの良い朝日を受けながら、隣の部屋で眠る少年を見詰める。
畳に敷かれた布団にくるまって、呼吸の度に微かに上下しているのがわかる。
小さく微笑んで、アラウディは再び外を見詰めた。
今現在、アラウディと雲雀は旅行中。
京都の町並みを楽しんで、日本という文化に触れた。
それが昨日。
雲雀と二泊三日の旅行をすると自分の恋人へ告げたら、少々不機嫌そうだったが勝手に行けばいいだろと言われた。
普段仕事ばかりで、中々構いたくとも構えない状態が続いていたのだが、雲雀の学校も創立記念日ならぬ休日が丁度金曜日で。
誘ってみたら少し時間をくれと言われ、ディーノへ報告したらしくこうして一緒に来ている訳である。




「…ん」
「おはよう。良く眠れた…?」


ぼーっと外を眺めていると、モゾモゾと起き上がる雲雀に気付き外から視線を外して声をかけた。
椅子から立ち上がると可愛らしい欠伸をする雲雀の元へ行き、寝乱れる浴衣を直してやった。
ありがとうとお礼を言われ、返事代わりに頭を撫でると、雲雀は微かな喜びを表した。




「今日はどうする?」
「…ゆっくりしたい。明日もあるし、ディーノも居ない……」


そうして大きな欠伸をしたかと思えば、雲雀はアラウディの胸の中へクタリと倒れた。
それを受け止めながら、最後の言葉の意味を少し考えてしまった。
普段からディーノは騒がしいが、雲雀はそういう意味で言ったのだろうか。
まあいいかと、雲雀を再び布団の中へ寝かせようとした所で浴衣の襟を掴まれている事に気付く。
優しい手つきでそれを離そうとするが中々離れてくれない雲雀の手。
ぎゅっと掴まれているこの状況に、アラウディは少々困惑した表情をした。




「仕方ない…」


小さな溜め息を吐いて雲雀を抱き上げると、雲雀の寝ていた布団の中へ自らも入り、気持ち良さそうに眠る雲雀に柔らかく微笑んだ。
朝食はバイキングだから眠っていても大丈夫だろう。
胸元にある雲雀の頭を軽く撫でて、瞼を閉じた。
優しく雲雀を抱きしめて、深い眠りへと堕ちていった。
























「ん…」


どれ程眠ってしまったのだろうか。
うっすらと瞼を持ち上げた雲雀が幾度か瞬きを繰り返しやっと視界が鮮明に見えてきた。
眠っている最中、何故だか異様に気持ちの良い温かさを感じた気がする。




「っ!?」


視界がはっきりしてきた途端、雲雀は今の自分の状況に驚き慌てて身体を起こした。
雲雀の真下で眠るのはアラウディの姿。
なのだが、何故己がアラウディの上へ乗り掛かっているのだろうか。
おまけにアラウディの身に纏う衣類はほぼ半裸に近く、帯留めで辛うじて留まっている状態。
肩まで剥き出しにされたその姿は、明らかに乱れている。
きめ細かい綺麗な肌が嫌という程に晒け出され、思わずじっと見入ってしまった。
薄い髪色に負けない程の白い肌。
普段コートに包まれているアラウディの肌が、今自分の目の前で手の届く所にある。
そう考えてしまったら、自然と目の前に見える素肌へ手を伸ばしていた。




「…アラウディ」


そっと触れたアラウディの肌。
仕事柄、感覚神経は鋭い筈なのだが、雲雀の手には何も反応をせずにただ気持ち良さそうに寝息をたてるだけ。
首筋をなぞるようにして手を滑らせ、その滑らかな肌触りを感じた。
そして胸元まで手を滑らせた刹那。
眠っていた筈のアラウディがその手首を掴み、ぐっと雲雀の身体を抱き締めた。
そして驚きに目を見開く雲雀の唇へ、戸惑いもなく口付ける。




「ん…!う」


必死に離れようとする雲雀だが、後頭部と腰をしっかりと固定されてしまって身動きが取れないまま。
咥内へ侵入する舌に翻弄され、雲雀の脳内も次第に蕩けていった。




「寝込みを襲うなんて誰に教わったの」
「っ、違う…ッ」


己の上で息を切らす雲雀へ、口元を緩めながら問い掛けた。
力が抜けたようにクタリとする雲雀は、違うと否定するが正直どうでもいい話。
相手が自分に興味を示してくれたという事実が堪らなく嬉しいのだ。
未だ肩を上下させる雲雀を、これでもかという程の力で抱き締める。
愛しい愛しい相手。
己の恋人とは違うこの感情は、雲雀にしか感じられない甘い刺激。
やめてと口にはするけれど、抵抗をしようとはしなかった。




「ねえ…」
「なに」
「…ディーノにお土産買ってあげたいんだけど…」
「いいんじゃない。お揃いの物でも買ってあげなよ」
「それは嫌。お揃いなんて気持ち悪い」
「…それ聞いたら泣くよ、あの人」


雲雀の素直な言葉に、アラウディは可笑しそうに目元を細めた。
そんな彼に、自然と雲雀も口元が緩み、目の前にある相手の身体へスルリと腕を回す。
直に感じるアラウディの肌が心地良い。
ぴたりと胸元へ頬をくっ付け、とくりと聞こえるアラウディの鼓動が雲雀の心を温めた。
人肌の体温がいつも以上に気持ちが良い。




「ねえ…」
「今度はなに」


素直に甘えてくれる雲雀を優しく撫でていると、二度目の問いかけをされた。




「僕を抱いて」
「…は」


突然何を言い出すのかと思いきや、雲雀の言葉に耳を疑った。
あまりの衝撃に何も言えないでいると、アラウディを抱き締める腕に力が入る。




「お願い…」
「……どうかしたの」
「こんな機会…滅多に無いだろ……だから…」


そこまで言葉を並べた所で、ガバリと身体を反転させる。




「要は…愛されたいって事?ディーノだけじゃ足りない?僕に抱かれて、何が満たされるの」
「……」


アラウディの視線が、真っ直ぐ雲雀を突き刺した。
思わず視線を逸らして暫し押し黙ると、顔の横にあるアラウディの腕に、スッと自らの腕を絡める。




「たまには…いけない事したいだろ」


そう口にして、嬉しそうに笑う雲雀の表情。
自らを突き動かすのはただの好奇心。
ディーノという恋人がいながら、別の男と身体を重ねるという事が堪らなく雲雀の興味を煽った。
いけない事だという事はわかっている。
けれど子供特有の強い好奇心が、雲雀の行動を生んだ。
満たされるのはただの欲望。
中学生という身体で、大人の刺激と快感を得てしまった雲雀には、今以上の刺激が欲しかったし興味があった。
今以上の刺激を求めて、辿り着いたのはアラウディ。
以前同じような誘いをアラウディにしたのだが、それ以来度々身体を重ねる事があった。
だから「たまに」というわけでもない。
ただ久しぶりという事は確か。
アラウディに抱かれながらディーノを想うあの背徳感が、雲雀にとっては良い興奮材料。
後ろめたい気持ちはいつも感じるが、その奥には確実に快感を得ている自分がいた。




「全く…、悪い子だね。ディーノに怒られても知らないよ」
「いいよ、どうせ気付かない…。君と僕だけの秘密だから」


変態だという事は既に自覚している。
そしてそんな雲雀に付き合ってしまう自分もまた、いけない奴だと感じていた。








........end


すみませんこれがボツになったやつです本当に申し訳ないです…!
途中の成り行きに迷子になり、無理矢理お土産話を突っ込んだらこんなグダグダになってしまいました…。
リクエストに応えられず申し訳ありません…orz
こんなボツで良ければ拝見だけでもと思い、こうして公開させて頂きました。
話がこれ以上発展出来なくて中途半端な所で終わっておりますが…;;








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