3話





Gが去って、暫くの間雲雀を見詰めていた。
そして朝食の存在を思い出したらしく、柔らかな頬を小さく撫でてアラウディは静かにその場から離れた。
机に置かれていた朝食を前に、そのソファーへ腰を下ろす。
数個あるコルネットからはほんのりと甘い香りが漂って、トッピング用にと小皿の中には手作りのジャムや新鮮な蜂蜜が。
そしてたっぷりの溢れんばかりのホイップクリームを挟んだコルネット・コン・パンナとカップ一杯に注がれているのは甘苦いカプチーノ。
砂糖が沢山入ったエスプレッソに、クリーム状に泡立てた牛乳が綺麗に模様を作り出している。
早速コルネットに甘いジャムを付けて一口口にし、ゆっくりと甘い味を咀嚼して楽しんでいるとモゾモゾとベッドで身動ぐ姿が視界に入り、雲雀が目を覚ましたかと口に残るそれを飲み込んで、アラウディは静かに立ち上がった。




「やあ、目は覚めたかい?」
「………」


ベッドへ近付いて、ゆっくりと瞼を動かす雲雀に穏やかな声音で声を掛けた。
寝起き眼の漆黒の瞳が此方へ向いて、どうしてこのような状況になっているのかは理解しているらしく、穏やかな笑みを浮かべるアラウディとは逆に雲雀はふい、と背中を向けてしまう。
どうしたのかと心配するでもなく、アラウディは小さく溜め息を吐いてベッド縁へと腰掛けた。




「…拗ねないでよ。悔しいのはわかるけど、これが現実だ」
「………」
「負けを認める事も、一つの強さだって前にも言っただろう?」


優しく、宥めるような声で雲雀の頭を撫でてやるけれど、当の本人は全く反応を示してくれない。
毎度の事ながら仕方ないと、雲雀の身体を此方へ引き寄せて背中から抱き締めてやると、雲雀は存外大人しいままでアラウディに抱かれた。
布団を身体に絡めたまま、雲雀は黙って口端を下げる。
悔しいし、勿論ムカつく。
別に拗ねているわけではないけれど、人一倍負けず嫌いな性格が己を素直にさせてくれなくて。
ただ、どうして大人しくしているかと言えば、それは抱き締められる事に不快感を感じないから。
こうしてアラウディに抱き締められるのは嫌いではない。
包まれるような優しい腕が、やはりディーノと似ているのだ。
だから、ムスッとしたまま大人しくしている。




「ねえ…機嫌直してよ」
「………」
「…ねぇ、恭弥…」


なんて、次第に甘ったるい声に成り変わるアラウディ。
自覚しているからこそ質が悪いのだけれど、耳元で囁かれるような擽ったさに雲雀は小さく身動いだ。




「別に……怒ってない」
「そう?この顔、凄く不機嫌そうだけど…」


せっかく答えてやったというのにケロリと声音を変えると、アラウディは雲雀の顎を小さく持ち上げた。
そして機嫌が良いとお世辞にも言えないそんな顔を見て、アラウディは静かに笑う。
離してとも嫌だとも言わない雲雀だが、バカにしているのかと眉間に皺を刻んだ。




「ムカつく…」
「いい加減機嫌を直して。僕はディーノみたいに慰められないから」
「っ…別に、ディーノに慰められたいなんて…」
「そういう顔してる。見ればわかるさ」


咄嗟に言葉を返そうとする雲雀に、アラウディは何時にも増して真剣な表情を浮かべた。
何処か悲し気な眼差しをしながら、真っ直ぐに雲雀を見詰める。
それはまるで、愛しい我が子を助けられない焦れったさに己を責める、そんな母のような瞳だった。
母の愛情等知らないけれど、こうしてアラウディに向けられる一つ一つの行動が自棄に記憶に残る。
暑苦しい眼差しを向けられて、まるで愛しいものを見るような瞳が此方を向いて。
ああ、愛されているのだと素直に感じる事が出来た。
ディーノとは違う、とても甘えたくなるような大きくて優しい愛。
似ても似つかぬその愛情は、じんわりと、そしてしっかりと雲雀の胸を暖かく満たしていった。




「バカ…」


ぱっと力任せに顔を逸らした雲雀。
その頬が、ほんのりと赤みを帯びているだなんて本人が気付くだろうか。




「全く…相変わらず鈍い子だね」


そんな事を呟きながら、アラウディは雲雀の身体を小さく抱き締めた。






........end


みなみ様へ。

お待たせ致しました。
内容はアラ雲長篇の番外編みたいな感覚で書いたので、凄く書きやすかったです^^
設定がわたしの中で既に出来上がっていたのでなんとか完成する事が出来ました。
ですが、みなみ様の希望する雲雀とアラウディのいちゃいちゃがあまり無くてすみません;
部分抜き出しが下手くそなので、話の流れを書いていかないと先が書けない野郎でしてなんだか前振りが多くてすみません…
しかも文面が相変わらずの雑魚ぶりで申し訳無いです…!

終わり方が気持ち悪いだとか、何かご要望がございましたら遠慮なく仰ってください。

この度は素敵なリクエストをありがとうございました!



管理人:皇






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