2話





「……」


重い瞼をゆっくりと持ち上げながら、明るい日差しを受ける眩しさに眉を寄せる。
幾度か瞬きを繰り返すと視界が鮮明に見え始め、完全に瞼を持ち上げた頃には視界に映る風景にぐるぐると脳内が混乱した。
フワリとした布団と枕に俯せに寝かされ、勿論と言うのも可笑しいが、両手には新しい手枷が繋がれていてそれはベットヘッドへ鎖で繋がれている。
ぐっと引っ張ってもビクともせずに、ただ傷付いた手首が痛むだけ。
そして己の上半身は衣服を剥がされ身体には痛々しい包帯が巻かれていた。
寝苦しい格好ながらも今まで意識を失っていたなんてと自分を殴りたくなる。
そんな所へ現れたのは、あの忌々しい雲雀の姿。
昨夜だか何時かの堅苦しいスーツではなく、今は緩んだ着流しを身に纏っていた。




「やあ、気分はどうだい」


スッキリとした声音の雲雀は、今は機嫌が良いらしい。
すっと此方へ近付いてきて、ギシ、とベッドへ腰掛けた。




「…最悪だ」
「そう、なら良かった。これで最高だなんて言われたらどうしようかと思ってね」


穏やかな声音で言葉を並べながら、包帯に巻かれたアラウディの背中を指先でゆっくりと撫でる。
湧き出る嫌悪感に抵抗しようとするけれど、身体中に痛みが走ってどうにも出来ない。
悔しげに唇を噛み締める様を見ていた雲雀は、露にされたアラウディの項へと唇を寄せる。
ピクリと眉を寄せたアラウディだったが、次に感じた小さな痛みに微かに眉を潜めた。




「なに…してる」
「キスマーク、とでも言えばいいのかい?ふふ…僕は君が気に入ったみたいでね、今日から監禁させて貰う事にしたよ」
「…っ、勝手な事するな…。監禁なんてふざけるにも程が…」


そこまで言ってアラウディの言葉は止まった。
正しくは、言葉よりも遥かに上を上る苦痛の呻き声に掻き消されたとでも言うべきか。
アラウディの背中に強く爪を立ててわざと傷口を開かせると、その苦痛に呻くアラウディの様子にクスリと口元を緩めた。
せっかく巻いていた白い包帯にじわりと真新しい血液が滲み出し、雲雀は満足気に笑顔を溢す。




「逃げる事は許さない。世話は此方がするから心配しなくてもいいよ。ただしそれらを拒んだりすれば…わかってるね?……」
「あ゙、…ぐ」


背中に感じる鋭い痛みにアラウディは顔を歪めた。
そんなアラウディに満足したのか、すっと手を離し入ってという声と共に盆に乗った料理が運ばれてくる。
それから再び扉が閉められると、雲雀は白米の入った茶碗を掴み箸で一口掴んで自らの口へ運んだ。
そんな光景を静かに睨み付けていると、白米を掴んだ箸が口元へすっと寄せられ、いらないと顔を背けると潔く諦めたのか箸が遠ざかっていく。
敵である相手から食事を容易く口にするなんて有り得ないと拒んだアラウディだったが、次の瞬間髪を鷲掴みされ、ぐいっと強引に雲雀の方へ顔を向けられるとあろう事かそのまま口付けられた。
咄嗟に身を引こうとするアラウディだが、口内へ異物を押し込まれたかと思えば早く飲み込めと言わんばかりに舌で押し込むものだから、余りの苦しさにごくりと喉を動かした。




「美味しいだろう。最高級の米だよ」
「…君のせいで味が台無しだな」


飲み込んだのを確認した雲雀はすっと口を離して得意気に口元を緩めた。
美味くもない白米を眉を寄せながら飲み込んだはいいが、正直吐き気しか感じられない。
それを素直に口にしたら、突然視界がグラついた。
重い鈍器がアラウディの頭を直撃し、目眩がする程の力に深く眉間に皺を寄せる。
昨日の今日で身体中が痛みに悲鳴を上げているというのに、更に加わる暴力にアラウディの思考もフラりとさ迷う。
目覚めたばかりに近いというのに、朝から意識を飛ばしそうだ。
雲雀はアラウディの髪を乱暴に掴み上げると、間近に顔を近付け怒気の含む声音で言葉を口にした。




「ねえ…君、立場わかってるの?まだ足りないようだから、身体に教え込ませてあげるよ。僕に感謝するんだね」
「っ……」


怯む事は一切しないアラウディだが、雲雀を睨み付ける眼差しは既に弱々しく気力も無い。
けれど、雲雀は情けを掛ける人ではない為にそんなアラウディに対しても仕打ちは変わらなかった。
両腕を拘束され、抵抗すらも出来ないアラウディに雲雀は容赦のない怒涛の攻撃を仕掛ける。
幾度も身体を殴られ、脇腹を強く蹴られた際にボキリと肋骨が折れる痛みを、薄れゆく意識の中で感じていた。
痛みに呻いて喚こうが、アラウディは決して弱音を吐く事なくその行為にひたすら耐え、数時間に及ぶ過酷な行為が終えた頃にはアラウディの息遣いも微かな物となっていた。
冷静な顔でアラウディを見下げる雲雀は、そんな姿に口元を緩ませる。




「生きてる?」


嬉々とした声音で声を掛ける雲雀の姿は畏怖の念を醸し出し、アラウディは覚束ない視線をさ迷わせ雲雀の姿を視界に捉える。
腕とベッドヘッドを繋ぐ鎖をするりと解かれ、髪を掴み持ち上げたアラウディの唇へ雲雀は躊躇なく口付けた。
意識のフラつくアラウディは、大した抵抗も反応も出来ずにその口付けを受け入れる。
微かに寄った眉が、唯一その嫌悪感を表していた。
するりと口内へ侵入する舌にアラウディは不愉快そうに目を細め、ゆっくりと溶かすようにして動く雲雀の舌は身体中に走る痛みに勝る事無くアラウディは刺激を感受出来ずにただ一方的に口内を掻き乱される。
昨日のように噛み付いてやろうとも思ったが、きっとまた殴られるだろう。
大した問題ではないのだが、あまり記憶を飛ばしている訳にもいかないし、身体中が痛みに悲鳴を上げているようにズキンズキンと節々が酷く痛む。
抵抗しないアラウディに雲雀は口元を緩め、その身体をぐいっと此方へ抱き寄せた。




「ぅ…っ」


痛む身体に眉を寄せて、アラウディは離せと雲雀の身体を押しやるが当の本人は赤子同然に近い可愛らしい抵抗にただ楽し気に目を細め、逃げるアラウディの舌に絡み付いた。
シーツの上で胡座を掻いて、その膝へアラウディを横抱きにして抱き締める。
逃れたい気持ちは堪らなく感じられるのだが、身体がピクリとも動いてくれずにただ悔しげに眉を寄せるばかり。
上顎をなぞり、歯列をなぞり、舌を強く吸い上げてアラウディの口内を溶かしていく。
次第に警戒心から強張っていた身体は弛緩していき、ゆっくりと口を離した時にはくたりと身体の力が抜けて、薄く開いた口から吐息が漏れた。




「君のアジトは何処だい。素直に吐けば優しくしてあげる」
「…フ……バカにしないでよ…君みたいな無能じゃない」


ぐったりとしたままのアラウディが怪しく口元を歪めた刹那、何処にそんな力があるんだという力で思い切り頬を殴られた。
しかも、腕の拘束具はいつの間にか外されていて、代わりに雲雀の両手首には金属製の手錠がガッシリと嵌められている。
驚きよりも悔しさに眉を寄せ、鋭い視線でアラウディを睨み付けた。



「怖い顔しないでよ。僕の仕事柄、拘束具は十八番なんだ。…このまま君をかっ拐うのもいいけど、先ずはこの身体のお返しをしてあげないとね…」



















さあ、至極の快楽へ堕ちていこうか。
暴力と狂気にまみれた、魅惑的な生地獄へ…。








........end









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