出逢い





「俺達と来ないか」


そう言葉を口にしたのは、薄い金髪をした一人の青年だった。
彼から一歩離れた辺りには赤髪の青年が立っている。
金色の柔らかな眼差しがアラウディを見詰め、互いの間に流れる風が二人の髪を撫でた。




「生憎、僕は自警団なんて物に興味が無い。興味があるのは情報だけだ」


それだけ言って去ってしまう後ろ姿を、ジョットは少々悩まし気な顔で見送った。
守護者が集まる頃より幾らか前の話。
少々若さを感じさせられるアラウディの背中は、凛としていて儚げだった。




「『何者にも囚われず我が道をいく浮雲』か…。あいつを入れるのは難しそうだな、G」
「まあ…無駄に頑固そうだしな」


ふう、と煙草の煙を吐いて去って行くアラウディを見詰めるG。
赤い髪を風に靡かせながら、Gはクルリと背を向ける。
アラウディとは逆に足を進めると、ジョットもまた後に続いて足を動かした。
清々しい表情で、再びアラウディに会える事を願いながら。

























「元気か?」
「……君達もしつこいな。いい加減にしなよ」


一人木陰で休んでいた所へ視界に映る二人の姿。
途端、眉間に皺を深く刻んで鬱陶しそうな眼差しを向けた。
苛立ちの籠る声音でそう口にすると、まあまあと楽し気に笑うジョット。
そんな相手が勘に障るというのに。
大きな溜め息を吐いてこの場から去ろうと立ち上がった刹那、周りに現れた数十人の男達。
鉄パイプやら鉄斧やら、様々な鈍器を片手に掴んでいる。
何事かと驚くジョットとGだが、アラウディは一人平然としていた。
アラウディの見詰める先に立つ一人の男。
周りを囲む男達よりもいかにもガラの悪そうな姿で、まさしくボスと言った所か。
怒りという感情は見えないが、明らかにアラウディただ一人を睨み付けている。
冷静なアラウディとはうって変わり、Gとジョットは未だ戸惑いを隠せないようで表情は一変して強張っていた。




「やっと見つけたぜ、アラウディ」
「さあ…。君みたいな奴知らないな」
「惚けてんじゃねえよ。てめえが俺達の情報を垂れ流しにしてんのはわかってんだ、これ以上は我慢ならねえ…」


男がサッと手を挙げるのを合図に、男達は一斉に掛かってきた。
要は、アラウディに恨みを持った組織の奴等が攻撃を仕掛けてきたという事なのだろう。
結論を言えばGとジョットは完全にとばっちりを受けたという事。
ジョットもGも降り掛かる鈍器の嵐を懸命に避けながら、器用に相手へと攻撃を仕掛けていく。
互いに背中を合わせながら戦うGとジョット。
そんな二人を見て、アラウディは少々見直した。
見誤っていたのだろうが、そうそう弱い訳ではないようだ。
振り下ろされる斧をスルリと避けて、アラウディは着々と敵を倒していった。
弱さを見せない三人の姿に、ボスの顔はみるみる内に歪んでいく。
少しずつ減っていく部下を見ながら、男は片手に銃を持ち、その銃口をアラウディへと向けた。
それをアラウディより先に気付いたジョット。




「死ね、アラウディ!!」
「っくそ……!」


男が叫んだ刹那、その場に一発の銃声が響いた。




「ッ、大丈夫かジョット…!!」
「…ああ…ッまあな……」


ドサリと身体を落としたジョットに、Gは慌てて駆け寄った。
アラウディは信じられないとでもいった表情で未だ襲い来る攻撃を自らと二人を守護しながら戦い、ある程度片付いた所で愛用の武器を取り出した。
そして残りの敵を片付けるや否や、二人と男の前に立ち塞がる。




「もう効かないよ、それ」


すました表情のままそう口にすると、間髪入れずに駆け出した。
何発も打ち出される銃の弾を驚異的な動きで弾きながら、アラウディはその武器で男を捕らえ、渾身の一撃を食らわせた。
















「……どういうつもり…」


スッと武器をしまって二人の元へと足を進めると、太股を押さえるジョットへ問いかけた。
Gの巻き付けた布が、既に赤黒く染まっている。




「どうって…俺がしたかっただけだ」
「頼んでない。余計なお世話だ」


ふい、と顔を逸らしてジョットから視線を外す。
こんな男は見たことが無いし、会った事も無かった。
だから理解も出来ないしする気も無い。
そんな態度のアラウディに、ジョットとGは顔を見合せて小さく笑った。
何が可笑しいんだとキツく睨み付けたものの、ジョットを小屋まで運ぶのを手伝ってくれと、半強制的にGに連れられ仕方なくその小屋へと足を運んだ。
























それから二人とちょくちょく会うようになり、いつの間にか自分の側には二人が居る事が当たり前になっていた。
慣れ合いを好む訳ではないが、何故だかこの二人といると気が紛れた。
二人を特に追い払う訳でも無く、アラウディも気紛れで二人と行動を共にした。
それから次第に仲間は増え、それと同時にアラウディも次第に二人に寄り添わなくなると、ボンゴレという組織が出来た頃にはアラウディは既に身を遠ざけていた。
門外顧問という組織を個人で立ち上げ、そして再び情報を追い、時には任務をこなし、孤高の雲として日々を過ごしていた。




「アラウディ」
「なに…」
「かつてのお前は今以上に頑固だったな」
「…ふん、」
「だが…綺麗になった」
「……なに、急に」
「いや。こうしてお前を見ていたらついな…」
「……変な人…」


そう呟いてそっぽを向いた。
門外顧問トップであるアラウディの執務室で、マントを脱いだベスト姿のジョットがアラウディの隣へ腰掛けていた。
自分に背を向けるアラウディに、ジョットは小さく笑う。
そしてそんなジョットに何が可笑しいんだと、アラウディは顔を向けた。




「なに笑ってるの」


振り向いたアラウディの、少し不服そうな顔が可愛くて仕方ない。
ジョットは何でも無いと答え、アラウディの額へ口付けた。




「そっちは嫌…」
「わかってる。だからわざとこっちにしたんだ」


額では無く口にしろと、自らの顔を突きだしてねだるアラウディ。
けれどそんな額をツンと突いて、ジョットは穏やかな笑みを見せた。
また笑ってる、なんて眉を寄せて拗ねるものだから、わかったわかったと抱き締めてやった。




「……バカな人…」
「お前よりは器用だ」


そんな言葉を互いに吐いて、小さく笑った。
普段執務室からは筆の走る音ばかりが聞こえていたけれど、今日ばかりは二人分の静かな笑い声が聞こえた。
















君と出逢って良かった。
そう思えるこの今が、僕は一番幸せだ…。









........end







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