解熱剤




※ツンのアラウディはいません。

















豪華な装飾を施した大広間で、アラウディは目を通していた本から顔を上げた。
そして自分の向かいに座る黒髪の男へ視線を向ける。
首から手首、そして身体の左半身を盛大に飾る刺青が今では一枚のシャツに隠れて、辛うじて見えるものは首元と腕の刺青だけ。
しかし、それだけでも彼の美しさはアラウディに至極の幸せを与えた。
目の前の彼は、この猛暑に反抗するかのように先程からひたすらシャーベットやらの冷たいジェラートを口に運んでいる。
アラウディはただ黙ってその姿を見ているだけだったが、跳ね馬からは水も何も出されない。
任務に関連する情報を聞きに来た序に、少し留まってもいいかと聞いたら勝手にしろと言われた。
だから、こうしてキャバッローネ邸で余った時間を過ごしている。
しかし暑いものは暑い。
コートを脱ごうとしたら汚ねえもん増やすなと言われ、仕方なくコートを着たままなのだが、薄い生地で出来ているとはいえアラウディの身体に籠る熱はじわじわと蓄積していき一筋の汗が頬を伝う。
それを慌てて拭き取って、ゆっくりと口を開いた。




「ねえ…」
「………」
「……ねえってば」
「うるせえな、何だよ」
「…水が欲しい」
「あっそ」


跳ね馬から返される言葉は何時も冷たいものばかり。
水が欲しいと訴えても、ろくに会話をしてくれない。
嫌われているのだろうが、相手がこの部屋から出ていかないというただそれだけで、アラウディは嬉しかった。
冷たく返された返事を聞いて、動こうともしないまま再びジェラートを口に運ぶ跳ね馬。
仕方ないと、持っていた本を置いて少し厨房を借りようかと立ち上がると、アラウディへ視線を向けた跳ね馬が面倒そうな顔をした。




「勝手に屋敷ウロつくんじゃねえよ。そんなに暑いならボンゴレに帰れ」
「……ごめん…」


言葉を言い切る前に視線は直ぐにジェラートへ向く。
そんな跳ね馬の言葉に、アラウディはきゅっと唇を噛み締めて再びソファーへ身を落とした。
帰るのは簡単だけれど、ここへ来るのは容易な事ではない。
少しでも長い時間を相手と過ごす為に、アラウディは再び灼熱に耐えた。
暑さを少しでも紛らわそうとテーブルに置いた本を開き、そしてまた暑い空間の中で、アラウディは読書をし始めた。
ひたすらジェラートを頬張っていた跳ね馬だが、そんなアラウディへチラリと視線を向ける。
頬を伝う汗を、落とすまいと懸命に拭うアラウディ。
時折ぱたぱたと掌で顔を扇ぎながら、暑さから意識を逸らそうとする姿が見て取れる。
いくら自分が冷たく当たろうと、アラウディは決してめげずに自分に近付いては声を掛けてくる。
全く迷惑極まりない。
アラウディが自分を好いていようがどうでもいい事だ。
自分には関係無い。
けれど、どんなに暴言を吐いて無視をしても、一途に自分へ向ける気持ちだとか行動には興味が無い訳でもない。
はあ、と盛大な溜め息を吐いて、本に視線を送るアラウディに向け、スプーンで掬ったジェラートを放り投げてやった。
当然受け取る物も何もないアラウディは、冷たいそれを頬で受け止めて何事かと視線を上げる。




「それでも舐めとけ」
「………」


ぽたぽたと本に染みを作る光景をじっと見詰めて、アラウディは頬にへばりつく冷たい液体を指で拭い、それを黙って口に入れた。
少し温かくなってしまったけれど、それでも口内の温度に比べれば冷たくて気持ちが良い。
屈辱感よりも何よりも、相手に構って貰えたという嬉しさが心を暖めた。
それを幾度か繰り返していくと、少なかったそれもいつの間にか無くなって、ゆっくりと顔を持ち上げると彼に小さくお礼を告げた。
染みの出来た本をパタリと閉じて、そろそろ帰ろうかと夕陽を見詰めて立ち上がる。
本を脇に抱え、一言帰るとだけ口にすると大きな扉へ向けて足を進めていく。
すると、背後から投げ付けられたジェラートが頭に直撃し、カランと容器の落ちる音と共にくるりと振り返った刹那、再び投げ付けられたそれを片腕で庇った。
一体何なんだと顔の前にやった腕を退かして、アラウディは跳ね馬に困惑した視線を向ける。
二つ目の容器が落ちる音を聞きながら、此方を見る跳ね馬の瞳は真意がわからない。
何時まで待っても黙ったままの跳ね馬に、アラウディはすっと身体を落として本を床に置くと、転がる容器を二つ掴んで跳ね馬の前にそれを置き、汚れた床をどうするかと回りを見渡した刹那、突然頬を殴られて、そのまま身体を転がした。




「…ムカつくんだよ」
「……」
「嫌なら嫌って言えよ。止めてくださいとか言ってみろよ」


ムカつくというのは、きっと自らの存在がムカつくのだろう。
だったら早く帰るよと身体を持ち上げた途端、ぼたぼたと頭から冷たいジェラートを掛けられて、アラウディの動きがピタリと止まる。
嫌だというより、止めてというより。
そんな感情ではなくて、この不安定な彼の感情をただ受け止めたいだけ。
彼の怒りだとか鬱憤だとか、そんな物が少しでも軽くなるのなら側にいたい。
ぽたぽたと絨毯に吸われていく甘い液体を黙って見詰めて、そんなアラウディの頭へ跳ね馬は思い切り容器を投げ付けてやった。




「ッ…」
「なあ、なんでお前を見てるとこんなにムカつくんだろうな。ほんと…汚ねぇ」


ベタつく髪を掴み上げて、その甘い液体で汚れたアラウディの顔に嘲笑うかのような笑みを見せた。
大して身体中が痛い訳でも無いが、何故だか心がきゅっと締め付けられるように痛む。
小さく眉を寄せて返すと、さっさと帰れと突き放された。
すっと目を伏せて気付いた事は、この猛暑の中、いつの間にかその暑さを感じなくなっていた事。
顔に降りかかったジェラートを拭い取って、アラウディは静かにその部屋を後にした。
熱冷ましというより、内面的な熱冷ましを与えられたような、そんな抉られたように痛む胸元をぎゅっと握り締める。
それでもやはり、彼を嫌う事は出来なかった。
どうしてなのか、それは自分にもわからない。
ただ、彼の側にいたいという気持ちが強くて、何をされようと嫌う事なんて出来ない気がする。
ぎゅっと握り締める手に力を入れて、アラウディはボンゴレ本部へと足を進めていった。






........end

一応相互片想いのつもりです。
あんな態度でも初キャバはアラウディが気になるんですよね。
そしてアラウディはもっと初キャバに虐められればいi((殴
アラ→→→→←初キャバ
みたいな。
アラウディが一途とか可愛い。(もだもだ)







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